知られざる全ての学問の母・哲学の基礎知識「事実命題」と「当為命題」という概念-なぜ「辞書は正しいは誤り」なのか-

 世の中には善人とか悪人とかがあるわけではない。

 ただ、場合によって善人になったり悪人になったりするだけである。

 -アンリ・ド・レニエ-




 言語学者たちは口をそろえて「本来言葉に正誤はない」と主張します。

 正誤がないのは事実です。

 正誤の判断というものは文化・歴史・相対・主体・主観・個人的なものであって、万人に通用する普遍・一般・超越・絶対・客観的な正誤は本質的にありようもない。

 では正誤がなければ「正誤がなくて正しい」のでしょうか。


 そも言語学は元々は哲学の一つの分野でした。

 というより全ての学問は哲学から派生したものです。

 なぜなら哲学は「何かを考える」学問だからです。

 あらゆる学問の母体と言える哲学の基礎知識として「事実命題」と「当為命題」というふたつの概念があります。


 事実命題とは、この社会や世界や宇宙の過去・現代・未来で生じる「現象」を客観的に観測して記述した「事実・現実」を指します。


 当為命題とは、単に事実を記述するのではなく、ある「現象」の善悪・正誤・正邪・美醜を論じる「規範」を指します。


 哲学において「どれだけ事実命題を積み重ねようと、当為命題を導き出せない」とされています。

 なぜなら、そうしなければ「人類は戦争を繰り返すという自然の摂理を、悪とみなすことが不可能になる」と言えば理解できるでしょう。

 なお論理学の専門用語で「自然に訴える論証」「ヒュームのギロチン」があり、これは事実から当為を導く誤った論理を指します。


 言葉に正誤が無いのは事実ですが、当為ではありません。

「本来存在しない概念ならば、概念を創造すべきでなく、できもしない」という理屈が正しければ、本来自然界に存在しない正誤・善悪・正邪・美醜・正義・倫理などあってはならなくなる。

 当然それらを司る美学・倫理学・論理学は学問として最低最悪なものと批判しなくてはいけません。

 ましてや政治・経済・宗教・法律・憲法・人権・道徳の存在を認めるべきでない。


 たとえば自然科学において「殺人」は非の打ちどころのない、悪くもなんともないごく普通のことです。

 当然ながら戦争(他者への攻撃)は幾度となく行われてきた、人類の歴史から切っても切り離せないものです。


 事実と当為が同一のものと主張するならば、戦争を否定することが赦されなくなります。


 あなたが熱心に語っている政治や経済は自然界に存在するものですか。

 人間が恣意的に作り出した「自然の摂理に反する概念」に正解も不正解もありません。

 政治や経済に万人が認めざるを得ない絶対なる正誤があるというなら是非とも教えてください。


 宗教に元来の正誤があるのでしょうか。

 同一の宗教でもいくつもの派閥があって相反するのに、正しい宗教を定義できますか。

 邪教とは誰がどうやって決めるのでしょうか。

 あなたが信仰する神が邪神ではない根拠を示してください。


 本来命は尊いものではありません。

 地球が破壊されても悪いことだといえません。

 命が地球に何をしますか?

 その地球が宇宙に存在する意味はなんですか?

 答えられるものなら答えてみせてください。


 政治も経済も宗教も命も地球も「事実と対立する当為」がなければ価値も意義も一切見いだせない概念です。

 政治・経済・宗教・法律・憲法・人権・道徳は「時代・立場・状況によっていくらでも変化する極めて流動的であり、原理的に正誤を定めることが不可能な概念」です。

 だが事実と当為を同一視すると、人々を地獄に叩き落す独裁も宗教の皮を被ったイスラム国も日々殺されていく命も亡びゆく地球も何一つとして「正誤」を語ってはいけなくなる。


 そしてこれらは「概念の共有」がなければ成立しない。

 その概念の共有は「原理的に正誤の存在しない言葉に正誤を定める」ことがなければ不可能。


「原理的な正誤が存在しえない言葉の正誤」を語るべきでないならば「原理的な正誤が存在しえない政治・経済・宗教・法律・憲法・人権・道徳」を語るべきでない。

「言葉にだけは激甘」で問題ないと主張するなら「言葉による概念の共有がなければ成立しえない政治・経済・宗教・法律・憲法・人権・道徳」がどうなるか考えてください。


 あなたが、事実・当為の概念の存在を信用できなかったのなら、これを機会に哲学や科学に触れてみるとよいでしょう。

 参考までに下記の東北大学の解説を読んでみましょう。

 http://www.sci.tohoku.ac.jp/hondou/4-aboutsci.html




 哲学は、我々の目の前に拡げられているこの巨大な書物、つまり宇宙に書かれている。

 -ガリレオ・ガリレイ-

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