「犬と肉のこと」

 『伊曽保物語』または『イソップ物語』の「犬と肉のこと」、原文と現代語訳(引用者による整形と補訳あり)の引用。


 犬とししむらのこと


 ある犬、肉をくはへて川を渡る。真ん中ほどにてその影水に映りて大きに見えければ、「我がくはふるところの肉より大きなる。」と心得て、これを捨ててかれを取らむとす。かるがゆゑに、二つながらこれを失ふ。

 そのごとく、重欲心のともがらは、他のたからをうらやみ、事にふれてむさぶるほどに、たちまち天罰をかうむる。我が持つところの財をも失ふことありけり。


〈現代語訳〉

 ある犬が、肉をくわえて川を渡る。途中、真ん中あたりで、その犬の影が水に映り、揺れてゆがんで大きく見えたので、「自分のくわえている肉より大きい。」と、自分自身の姿であることに気づかず、そのように考えて、自分の肉を捨てて、水に映った相手の肉を取ろうとする。このために、自分の肉も相手の肉も失う。

 そのように、欲深い者たちは、他人の財産をうらやみ、なにかにつけて欲しがるので、すぐに天罰を受ける。具体的な天罰とは、くだんの話でいうと、欲深い者は、自分の財産まで失うことがあるということだ。

中学教科書『新しい国語 1』東京書籍、平成二十三年二月二十八日 検定済、整形と補訳引用者


[寸評]

 『教科書ガイド』には、この話の教訓として「欲張りすぎると損をするということ。」と説明されている。

 「損をする」と、取引根性めいたり消費者根性めいたりする説明でなく、素直にそのまま、「天罰を受ける」という教訓でいいと思う。



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2019/12/03

令和元年十二月三日(火)

大野城みずき

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