会談




 1942年 10月



 ナチス・ドイツは風前の灯となっていた。ドーバーで三隻の連合軍空母を血祭りに上げ、なんとか温存戦力で迎撃していたものの、数で圧倒的に勝る連合軍は一気呵成に東西南北からの挟撃を敢行し、9月にはスカンジナビア半島、デンマーク、ベネルクス、フランス、ポーランド、チェコスロバキアを次々解放。そして、国内で政変が起きたイタリア、ハンガリー、ルーマニアが降伏。

 イタリアの降伏後、前世ではムッソリーニを独軍が救出し、イタリア社会主義共和国を発足させ内戦状態となったが、この世界では独軍にそんな余裕はなく、ムッソリーニは連合軍に逮捕され、交渉によりイタリア正規軍は連合軍のドイツに協力する事となった。

 これで完全にドイツは包囲され、連合軍の海上封鎖と同盟国の寝返りで補給も絶たれて孤立してしまったのである。



 その頃沙羅は四首脳会談の為、ロンドンを訪れていた。




「敵の空襲もパタリと止み、ロンドン市民にも安全が戻りました。全て日米のおかげだ」



 以前の東京での事を思い出しつつ、調子いいなこのジジイと思う沙羅と吉田であったが、ひとまず勧持に応じる。

 この世界ではV1、V2ロケットがロンドンに飛来する事はなかった。といっても、それらのロケット開発に関する情報はしっかり忍者が持ち帰って米国及び英日露の連合国内で共有され、各国で研究が進められていた。沙羅の前世メタ情報から、ドイツ国内にいた有望な科学技術者達も連合軍が保護という名目で抱え、文字通り技術を盗んで見せたのである。



 そして会議は戦後処理について・・・・・・



「イタリアやハンガリー他の元枢軸国とは個別に講和を結びますが、ドイツについては一旦我々で分割統治し、その後、この前発足した自由ドイツ軍をもとに我が方に友好的なドイツ国政府を作る。これで皆さん、異論はないですね」



「ええ」「はい」「そうですな」



 沙羅は一応前世を踏襲する形を取り、イギリス、フランス、ロシア、アメリカ、日本の五ヶ国による戦後ドイツ分割支配を決めたが、その実際はこの戦争で成長し、欧州への発言力を増す日米の策略である。

 二ヶ国、そしてロシアでドイツ重要拠点を押さえ、何かと口うるさい英仏をいい加減黙らせようと言うものだった。

 実際、日米は既に戦後世界秩序を決める秘密協定を結んでいた。



「それと、我々のドイツ統治形態ですが・・・・・・」



 この日の会談で日米英露は戦後ドイツ支配と、その後の国際秩序形成について会議、会議に参加していないフランスも賛同し、戦後世界の行方が決定したのである。












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