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1942年 8月
7月に辛くもフランス上陸を成功させた連合軍は、独軍温存部隊の手痛い反撃にあいつつ、前進を続けていた。情報管理の拙さから敵に意図を読まれ、緒戦に空母三隻を戦列から失い、英本土の空軍基地も独軍の決死攻撃を受け、内陸部での航空支援は予定されていたそれより規模を減じざるを得なかったのである。そして沙羅はまたハリーとキングを呼びつけた。
「二人は何で呼ばれたか分かるよね?」
「はっ・・・」「はっ・・・」
「いったいどうなってんの?敵秘密基地だって忍者から報告は上がってたんじゃない?なのに、レンジャーやワスプはやられた。それに、上陸後の我が方の損害も無視できないレベル。これでどうやって年内にベルリンを落とすっていうのかしら、ねぇハリー?」
「ま、まぁ東部戦線では順調に行って・・・・・・」
「ふーん。そうね、怖いくらい楽勝に西進してるわね。で、その東部から消えたドイツ軍の精鋭って今までどこにいたのかしらねえ?情報部の将校達は何をしてたの?」
「ひぇ・・・・・・す、すみません。まさか敵にあそこまで情報が漏れていようとは・・・・・・」
「敵だって馬鹿じゃないのよ。それにキング、なんでメリーランドと長門、プリンス・オブ・ウェールズとかの戦艦隊もいながら、上陸部隊指揮官から地獄みたいな報告が上がってきたのかしら」
加賀やレンジャー等空母の喪失後、充分な航空支援が見込めないとあってメリーランド、長門、プリンス・オブ・ウェールズを中心とする戦艦群による艦砲射撃を敢行した連合海軍であったが、独伊軍の用意していた堅牢な陣地に対して期待されたような効果はなく、上陸部隊は海から上がった瞬間、敵の集中砲火を受け、ビーチには味方の遺体が次々に転がっていった。
「はっ・・・敵は海岸線に強固な陣地を構築し、艦砲射撃の効果が思った程には・・・・・・」
「ふむ・・・まあ、前世でも全て上手くいったわけじゃないしね・・・・・・」
「大統領、前世とは?」
「いや、なんでもない、気にしないで。それより、ワスプと龍驤の修理が終わるまで、残った空母でなんとかするしかないけど、陸上機の基地もどうせならフランス内に欲しいわね。そしたら比較的軽量で搭載量はあるけど足の短いのが難点な日本軍の双発爆撃機もドイツ空襲に使える。ハリー、状況は?」
「はい、今のところカレーやノルマンディー沿岸地域を中心に敵飛行場の奪取を進めておりまして、英本土より続々陸上機が舞い降りております」
「敵基地空襲の状況は?」
「はい、現在、先行の忍者と共同で敵秘密基地の探索、破壊作戦を行っており、敵の航空戦力も減りつつあります」
「もっと早くできれば・・・目立つからって忍者に最低限の武器しか持たせなかったのは失敗だった・・・・・・」
「悔やんでももう戦闘は始まって島っています。大統領、ベルリンからの返答はまだないのですか?」
沙羅は作戦と並行して、ドイツ政府に対し多少の譲歩も匂わせた降伏勧告を行っていた。が、ヒトラーはそれを頑として黙殺していたのだ。
「ないわ」
「では例の作戦を・・・・・・?」
「そうね。キング、ワスプと日本海軍の龍驤の修理が終わるまでってさっき言ったけど、どうなってる?」
「はっ。おかげさまで。搭乗員も猛訓練に励んでおります。また、日本海軍が新鋭の雲龍クラス空母を擁する艦隊を至急で回しておいてくれましたので、我々とそれら日本海軍機動部隊で北海からバルト海に殴り込みをかけます。そして、地中海も・・・・・・」
例の作戦とは、強大な海軍力を持ってしてのスカンジナビア諸国、デンマーク解放作戦及び、イタリア方面同時攻略作戦である。
ジブラルタルは幸い、未だ英国の勢力下にあり、敗色濃厚なドイツを見限ったか、あっち寄りと目されていた中立国のスペイン政府も通行を了承した。
世界三大海軍の集結によって実現した、東西南北からのドイツ大包囲作戦の一環が開始されようとしていた。
「くれぐれも情報管理を厳にするように。じゃ、下がって」
「はっ」「はっ」
情報の扱いには細心の注意を払えと釘を刺し、沙羅は二人を退出させる。
いよいよ、合衆国と日本は本格的な戦争を始めようとしていた。
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