とんだ記念日



 1942年 7月4日早暁 ドーバー海峡



 英海軍ハーミーズ、イラストリアス、日本海軍赤城、加賀、米海軍ヨークタウン、レンジャー等の連合軍空母艦隊が狭い海峡を埋めつくし、甲板上ではその艦載機のエンジンが一斉に回り出す。

 夜明けと同時に航空攻撃を開始し、ベネルクス地域からフランス沿岸地域に展開するドイツ空軍の戦力を削いでおく作戦である。



「全機、発艦始め!」



 総旗艦イラストリアスからの信号で戦闘機、艦爆、艦攻と順に発艦していく。

 発艦していった飛行機達は上空で隊列を組み、日米英合わせて数千機の群れとなって沿岸の敵レーダー陣地や敵軍港、飛行場に襲いかかっていく。

 この戦争、いや人類の戦争史上最大の作戦がいよいよ幕を開けたのである。



 その頃、合衆国ホワイトハウスでは・・・・・・



「始まったわね・・・・・・」



 米英日空母艦載機による第一次攻撃成功の電信を受け、沙羅はひとまず胸を撫で下ろした。



「ドイツ空軍の反撃はさほどなかったようです」



 やりましたねという表情で沙羅に話しかけるマイク。だが、前世では戦闘の現場の兵士であった沙羅はそう安心できないでいた。



「これだけの空襲を受けながら抵抗が少ないとは怖いわね・・・・・・いくら夜明けと同時攻撃とはいえ、敵にもレーダーだってあるはず。敵が内陸に航空戦力を隠して温存してる可能性もあるわ」




 そして、その予感は的中する。

 第二次攻撃隊として出かけた赤城艦載の零式艦上戦闘機(前世の同名の戦闘機とは全くの別物)が帰艦しようとドーバー洋上を巡航していたところ、パイロットが自機の上空を飛ぶ見慣れない双発機がいる事に気付く。



(双発?てことは艦載機ではないな。この辺で英軍や米軍の偵察機が飛んでいるとの報告もない・・・・・・まさか!)



 そう、彼が見たのは独軍の偵察機。ドーバーに米英日大規模空母艦隊出現の情報を受け、偵察飛行を行っていたユンカースだった。



(とすれば、母艦が危うい!)



 彼は操縦桿をぐんと引いて、敵偵察機に近づいていく。



(幸い、敵の航路は母艦から外れている・・・・・・って俺が迷っただけか。航法は苦手だからな・・・・・・まあ、何にせよ敵の目は一つでも潰さねば・・・・・・)



 戦闘機の快速を生かし、敵ユンカース偵察機を追い回し、撃墜。そして、すぐさま母艦に打電を行う。



 ワレ、ドクグンテイサツキハッケン。ゲキツイセリ。イチ・・・・・・



 その何気ない打電が味方を危機に陥れるとも知らずに・・・・・・



 ホワイトハウスで戦況報告を待つ沙羅の元に、逼迫した様相で通信士が飛び込んでくる。



「大統領、大変です。レンジャーが!」



「何?!」



 独軍偵察機と交戦を行った日本軍パイロットは、その戦闘経過や大体の撃墜位置を母艦に打電した。

 そして何より彼が迷ってしまって母艦に誘導を要請した事から、その一連の通信を傍受した敵軍に空母部隊の位置を知られてしまったのだ。

 決戦のために温存されていた独ルフトバッフェの精鋭熟練部隊は米英日艦隊の電探警戒ライン、周囲の護衛艦艇からの熾烈な対空砲火を掻い潜り、爆撃を敢行。遂にレンジャー、加賀、イラストリアスが大破、三隻とも自力航行不能。龍驤、ワスプ中破、船としての機能は無事だったが甲板に大きく穴が穿たれ艦載機の発着艦不可能の被害が出てしまい、米英日空母部隊はその戦力が半減してしまったのである。



「くそ、私の加賀タンが・・・・・・」



「え?」



「いや、なんでもないわ。それで、上陸部隊への航空支援はどうするの?!」



「今のところは残った空母で・・・・・・しかし・・・・・・」



「半減か・・・・・・でも、まだ負けたわけじゃない。英本土の基地航空隊もいる。艦隊には全力を持って加賀・・・じゃなかった、レンジャーの仇を討てと打電!」



「はっ!!」



 通信士の走っていく背中を見つめながら、瞳を燃やす沙羅。



「くそっ!!これじゃ本当に前世のミッドウェーじゃないのよ!!連勝に慢心して、情報管理も徹底されず・・・・・・ったく、とんだ独立記念日ね」



 いつになく荒ぶる沙羅に、マイクもジョージも顔を見合わせ、何も言えない。



(大統領、あれほど慢心は慎めと言ってたのに海軍の連中・・・・・・)



(俺達だってそうだろ。まさかこんな事になるなんてな)



 独空軍の決死の攻撃によって一気に三隻の空母を失い、更に二隻が空母としてメインの機能を喪失、出鼻をくじかれた形の連合軍。しかし、残った空母と戦艦群で反撃をしかけ、上陸作戦は辛くも成功。

 欧州西部戦線が再び構築される中、沙羅は・・・・・・



















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