会議


 1942年 夏


 第二次世界大戦はこの世界でも、枢軸軍連合軍双方が国際法等ほぼ無視で、敵捕虜虐待や無差別爆撃、偽装病院船での航行、それに伴う潜水艦での軍民無差別攻撃が横行していた。

 沙羅も吉田もチャドヴィンスキーもチャーチルも各国首脳は自国軍に対して、戦時国際法遵守励行を通達してはいたが、軍隊と言うのは巨大な組織で下も下になればそんなものはお構い無し、今般のような大戦ともなれば末端の兵卒までルールを徹底させるのは不可能なのである。



「正に国民国家の総力戦・・・・・・」



 ホワイトハウスでベルリン無差別空襲の記事を読みながら、ひとり呟く沙羅。

 その後、陸海軍長官を呼んでの戦争指導会議が行われる。



「都市爆撃で敵軍のみならず敵国民の戦意を挫く・・・・・・本当にそんなもの意味あるのかしら、ねぇハリー、キング」



 会議の場で、沙羅は二人の軍のトップに釘を刺す。



「大統領・・・・・・非戦闘員への攻撃を慎めと申されても、ドイツもイタリアも一般市民が工場で武器を生産・・・我が国とて銃後の市民一人一人に協力してもらって戦争をしておるのです。総力戦とはそういうものです」



 ハリーはもはや兵士と民間人の区別はこの戦争にはないと答える。

 今次の大戦で本土も植民地もさしたる被害を受けていない日米であるが、それでも国民から兵を募って戦い、国民の手で武器を作っているのだ。



「そうね・・・・・・でも捕虜の扱いとかはちゃんと丁寧にね」



「はっ」



「それで本題だけど、今度の上陸作戦の実施は・・・・・・」




 議題は近いうちに予定されているフランス上陸作戦に移る。



「大統領、まずこちらを見てください」



 キングが環大西洋、北海周辺の地図を貼り出し、作戦概要を説明する。



「現在、敵Uボートの潜伏すると思われる地域はここ、ここ、ここの三海域です。そしてそれは英海軍に任せます。そして英と日本、我が合衆国の空母戦闘群を持ってまず沿岸地域を空襲します。そして、敵が空襲で混乱している隙に長門、金剛、メリーランド等の戦艦群で殴り込みをかけ、敵水際陣地を吹っ飛ばし、輸送船を突入し、一気に陸軍部隊と海兵隊を上陸という算段です」



 既にこの頃、連合国海軍は枢軸国海軍の洋上戦力を殲滅しており、洋上の脅威は無きに等しく、潜水艦と基地航空戦力にだけ気を付ければ作戦は成功する可能性しかなかった。



「なるほど・・・・・・日英艦隊との連携は大丈夫よね?」



「はい、何とか。現場でも三提督が会議を重ねておりますゆえ」



「それならいいわ。で、ハリー。どれくらいでベルリンを落とせる?」



 沙羅はいきなり核心をつく。



「はっ・・・もう既に英本土に到着しておりますが、今回は日本陸軍も大規模な部隊を派遣してくれ、自由ドイツ軍もなんとか実戦レベルに間に合いましたので、敵の現状から鑑みるにおよそ年内にはと」



「早いわね」



「日本も我々も後顧の憂いはないですからな、東部戦線で戦っている仲間と、どこの隊が一番早く合流するか賭けるものまでいます」



「・・・・・・・・・まあいいわ。それじゃ、予定通りXデーは7月4日ね」



「はっ!」「はっ!」



 沙羅が作戦承認のスタンプを押し、二人の軍長官は退出していった。



(やけに楽観的ムードね・・・・・・前世のミッドウェー作戦時の日本軍とは状況も違うし、まあ、何もないとは思うけど・・・・・・)



 沙羅は何か嫌な予感がしつつも、東部戦線も上手く行っており、まさかここに来て戦局がひっくり返る事もないだろうと考え、少し眠りにつく。











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