ニューイヤーズイブ後編




 街中から市電とバスを乗り継ぎ、沙羅は博文をとある場所へ連れてきた。




「沙羅さん、ここは・・・・・・」



「そう、前世での私の生まれ故郷」



「ここがそうなのですね・・・・・・」



「ええ。それで、私の知る日本の話だっけ?」



「はい。沙羅さんの話では、その世界の大日本帝国は英米と戦い敗北し、それ以降は長らく戦争をしておらず平和が続いていた・・・・・・それでは何故、日本は再び戦わねばならなかったのか、何故あなたは戦死してこの世界のこの時代に転生されたのか、それがどうしても引っかかるのであります」




「・・・・・・なぜ日本が再び戦わねばならなかったのか、それは私にも分からない。エネルギー問題による紛争があったとはいえ、多くの日本人にとってそれは遠い異国の出来事だった。でも、介入を進める米国との軍事同盟関係や国際社会での立場・・・・・・そんなもので私達一兵卒は左右される。それは今の時代から何も変わってない。そして、この世界に私がエリザベスとして転生したのは、とある神の啓示よ」



「死後に、死者の御魂を司る神に会ったと?」



「そうよ。そして、今ここに居て、曾祖父と同じ名前を持つ貴方と共にいる・・・・・・それだけよ。この世界、この時代に来て思ったけど、日本も日本人も私の知るそれとなんら変わりない」



「そうですか・・・ですが沙羅さん、あなたは変わったんじゃないですか?」



「え?」



「あなた、以前会った時より随分この世界に慣れてきた感じがします。そして、だんだんとこの世界に染まっていく自身に怯えている・・・・・・違いますか?」



「・・・・・・本当に貴方は他人とは思えないわね。そう。怖いのよ。だんだんと前世の事、親の顔、親友の顔や彼氏の顔も忘れてしまいそうで・・・・・・そう思ったら、なんで私は一人でこの世界を生きてるんだろうとか、変な事考えちゃって・・・・・・・・・」



「前世の記憶がある分、生きづらいのは承知致します。ですが、まだ早まっては行けません。貴方が死んで悲しむのはアメリカ市民であり、貴方の大好きな日本国民であり、そして何より私が・・・・・・悲しみます」



 遂に感極まって泣き出す博文。



「博さん・・・・・・」



「一緒に横浜へ行った時、軍隊に入って初めてよかったと思えた・・・・・・その後もあなたが来日する度、私は護衛として付かせてもらって、あなたはこんな私にも本当によくしてくれて・・・・・・今日だって、あなたと一緒に列車で旅ができて楽しかった・・・・・・ですから、まだこの世界でいっぱい楽しみましょうよ!」



 号泣しながら、沙羅に思いとどまるよう説得する博文。

 実際、死のうとまではしていなかったが、大統領としての仕事を終えたいと思っていた沙羅は、彼の涙に心を打たれ、泣きじゃくる彼を抱きしめる。



「博さん、ありがとう・・・・・・大丈夫、私は死なない」



「沙羅さん・・・・・・私はいつでもあなたの味方であります」



 その後、二人は年越し蕎麦を食べ、除夜の鐘を聞きながら、日付が変わる頃に初詣へと行く。



(この戦争が一刻も早く終わりますように)



(沙羅さんが今年も幸せでありますように)



 それぞれの願い事を終え、御籤に興じる二人。



「沙羅さん、どうでした?」



「うそ、大吉ね!」



「おお、よかったじゃないですか」



「博さんは?」



「自分は・・・・・・凶ですね」



「ま、まあ大丈夫よ。結んで帰りましょう」



「はい・・・・・・」



 博文は結構こういうの気にするタイプなんだなとか思いながら、彼を連れて宿へと戻る沙羅であった。
























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