クリスマス東京会談1
1941年 12月
この世界の連合国軍は、多少苦しみながらも、驚く程有利に戦局を運んでいた。
大西洋と北海に展開する日米海軍主力艦隊の存在は、独軍に英本土攻略を躊躇わせ、東部戦線に於いても、日米露連合軍は航空戦力を駆使、そしてこの時期のロシア国内の冬将軍により、味方も動きづらい状況であったものの、独伊羅枢軸軍の進撃速度もかなり鈍って来ていた。
「戦時下のクリスマスか・・・・・・」
この時期、合衆国大統領エリザベスこと沙羅の姿は大日本帝国首都東京にあった。連合主要国米英日露四首脳会談の為である。
東京で開催される理由は、主戦場の欧州から遠く離れていることで敵国のスパイも少なく、最近は兵器輸出等で経済もぐんぐん回復し、治安も良好とあって、重要会議には最適だろうと判断されたからである。
実際、この東京は戦時下だといえかなり平和で、相変わらず街行く人々の話題は、今年のクリスマス(日本では25日は先帝祭で祝日であり、前世でも昭和に入った頃よりクリスマスの慣習が定着していた)をどう過ごすかと言う事ばかりだ。
「日本もアメリカも国内は平和そのもののようですな」
チャーチルが葉巻をふかしながら、皮肉混じりに沙羅と日本の吉田首相にごちる。
独軍は英本土を本気で攻略する構えは見せていないが、ルフトバッフェの散発的な英本土空襲は続いていたのである。
「しかしチャーチル卿、英国民の士気もまだまだ健在ではありませんか。それに、児童らの米国への疎開も無事に進んでおりますし、この頃は敵の攻勢も弱まっておるではありませんか」
一先ず吉田がチャーチルを宥め、シャンパンの入ったグラスを差し出す。
「ですが安心はできません」
チャーチルは吉田に一礼してグラスのシャンパンを飲み干すと、再び日米への不満をぶちまける。
「だいたい、アメリカと日本が昨年の時点で参戦していれば、状況は違ったはずだ。英日同盟、露日同盟に参戦条項はないかもしれないが、おたくらの難民救出に付き合わされ、犠牲となった我が兵達は・・・・・・」
これにはロシア首相チャドヴィンスキーもウンウンと頷く。
チャーチルは特に英露と直接同盟を結びながら、のらりくらりギリギリまで参戦をかわしてきた日本に腹を立てていた。
「しかしチャーチル卿、我が国としても合衆国同様、国民世論は参戦に反対しておったのです」
「それで戦場に民間船を繰り出して、沈められたから参戦というわけか」
「なっ、それでは我々が参戦の口実を作る為に危険区域に民間船を航行させたと言うのですか?!」
「断じてそれはありえません!」
吉田と沙羅がチャーチルの言に激昴し、チャドヴィンスキーも何を言い出すのかこのジジイはとチャーチルを訝しげに睨む。
「チャーチル卿、今の発言は我々の結束に疑問を投げかけます。我がロシアとしても、日米の参戦の遅れは認めるところですが、両国の参戦以降は我々はかなり助かっていますし、両国がわざわざ参戦の口実を作り出したというのは怪しげな陰謀論に過ぎません」
三首脳から詰められ、チャーチルは次第にバツが悪くなったのか、先程の発言を吉田や沙羅に一応謝罪し、話題を変える。
「ま、まあ日米両国の参戦によって我々が助けられているのも事実です。それで、本格的反攻作戦の時期についてですが・・・・・・」
東部戦線、西部戦線ともに連合軍はやや優勢ではあったが、本格的な反攻作戦には未だ時間がかかると予想されていた。
「やはりド・ゴールはフランス軍によるフランス解放を望んでいますか?」
沙羅が問う。
「ド・ゴールのフランス軍だけでない、オーストリアはともかく、ポーランドだって、チェコスロヴァキアだって、オランダやベルギーだって、彼らは自分達の手で祖国を解放したいと思っている。ヒトラーが諦めないなら、ドイツ本土、ベルリンまで我々は侵攻せねばならん」
「確かに・・・・・・」
沙羅はチャーチルに前世の事を言うべきか迷ったが、躊躇ってしまう。
その後も、様々な議論が交わされ、話題は終戦への道筋についてとなるが・・・・・・
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