爆撃隊
1941年 春
迫害難民救出も一段落して、日本と共にナチス・ドイツに宣戦布告し、第二次欧州大戦に参戦したアメリカ合衆国であるが、そのトップは戦時下でも相変わらずであった。
「もうさ、忍者でヒトラーとゲッベルス、ゲーリングあたり暗殺すればよくない?」
沙羅の言う忍者とは、彼女がCIA(この世界ではエリザベス就任時には既に存在)や軍のスパイとは別に組織した情報部隊で、その名の通り日系の者が多く、隠密行動に特化した特殊潜入部隊である。ちなみにこの忍者部隊は敵味方問わず世界各地で暗躍し、エリザベス政権の政策遂行にも大いに役立っていた。
「しかし、忍者はあくまで要人警護や情報収集が主たる任務です。武装はその辺の警察官とほぼ変わらず、確実にナチ幹部全員を殺せる程では・・・・・・」
「でも、全軍無条件降伏なんか認めるわけないし」
「それはそうですが、ヒトラーやゲーリングやヒムラー、ゲッベルス、ヘスらを殺しても、熱狂的なナチはまだいますし、ナチ以外の共産党などの独裁政党が出る可能性も否めません。事は慎重に運ぶべきです」
「うーむ・・・・・・でも時間が過ぎれば過ぎるほど、我が方の損耗も増えるわ。敵も味方も兵士の一人一人に待ってる家族がいるんだから」
「戦争なんですから、人は死にますよ」
「分かってるわよ・・・・・・(冷静すぎて怖いわ)」
でも、なるべくこの戦争を早く、悲劇少なく終わらせる。その為に日本海軍の主力まで大西洋に呼び寄せ、日米連合陸軍の派兵まで両国議会で示し合わせるようにスピード決裁したのであるから、なんとしてもこの任期中には終わって欲しいと沙羅は思う。
「そういえば大統領・・・なぜあの爆弾の開発を認められなかったのですか?」
あの爆弾とは、前世に於いて巨額の予算を投じて開発され、タイプの違う二発が広島市と長崎市に対して使用された原子爆弾の事である。この世界でも、世界有数の科学者達からその爆弾の実現可能性についての書簡が送られていたが、沙羅は前世の記憶から原子力反応によってもたらされるそのエネルギーは発電などの平和利用に徹するべしと回答し、合衆国軍にも正式にそのような兵器の開発禁止を通達していた。
「前世の記憶からよ」
「以前にロスで話されてた件ですな。確か、大統領の前世の歴史では、完成した爆弾は我が陸軍航空軍の爆撃機によって日本の広島と長崎に落とされ、万一生き残ったその後も人体組織に影響が残ると・・・・・・」
「人間も含め、地域の生態系にまで影響を及ぼしかねない・・・・・・放射能に関する正しい知識は米兵にもあまり共有されず、戦後も実験場で被曝したアメリカ軍兵士が多数・・・・・・こんな悪魔の爆弾をこの世界では絶対に作らせない」
「ですが、それだけの威力があれば使わずとも、抑止にもなるんではないですか?」
「ええ、実際私のいた世界では少なくとも私が死ぬまで、第三次世界大戦は起こらなかった」
「でしたら研究開発だけでも!」
「でも、ダメ。どんなものでも研究する事は大事よ。でもあの爆弾の開発は・・・・・・人間ね、作ったら使いたくなるのよ。その効果をまだ誰も知らないから尚更ね」
「なるほど・・・・・・」
道理だ。と、彼は納得する。原爆でなくとも、前大戦での毒ガスにしろ生物兵器にしろ開発してしまえば、人間は使ってしまう。
「まあそれは置いといて、敵の動きは?」
「はっ、今のところ敵さんもフランス戦線での損害が大きく、態勢の立て直しにかかっているようで、英本土の方も防備を整えつつあります。東部戦線においても、ドイツ軍イタリア軍に目立った動きは見られず、日本陸軍や我が派遣軍も到着し、反撃体制を整えております」
「怖いくらい有利な状況じゃない」
「ええ。しかし、大統領の予想通りドイツでは誘導爆弾を始めとする数々の新兵器の開発が進んでいるようで、米英日共同で英本土からの爆撃隊を繰り出してはいるのですが、いかんせん防御が堅く・・・・・・」
「あまり効果はない、か・・・・・・」
この頃の連合国軍ドイツ爆撃隊の損害はとても無視できるものではなかった。
ドイツ軍は陸軍こそ疲弊しているものの、空軍はかなり余力を残しており、初歩的ではあるがレーダー探知網を駆使して迎撃体制を整えていたのである。
それでも足の長い護衛戦闘機の増強等、数で押し切る連合国軍であったが、その間にドイツ軍の英本土侵攻準備も着々と進んでいく・・・・・・
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