大脱出




 この世界でも、ヒトラー政権率いるドイツ国(1871年、プロイセン主導でのドイツ帝国成立以来、ヴァイマル共和政、ナチス・ドイツとなっても続いた統一ドイツの正式な国号)は、各国の平和主義、戦争忌避ムードを利用して周辺国への領土要求を続け、ポーランドに対しては自由都市ダンツィヒの明け渡しを要求。ポーランドはこれを頑として拒否し、1939年9月1日にドイツ軍は同盟軍のスロバキア軍と共にポーランド領内へ侵攻。

 ポーランド軍の装備更新の遅れや、英仏露の対応の遅れ、そしてドイツ軍の空陸一体の電撃戦によりこの世界のポーランドもまた一度地図から消えようとしていた。

 そんな中、英仏露とは友好国であり、アジアの一大列強である大日本帝国はある計画を発動。

 沙羅も日本政府の呼びかけに応じ、合衆国は日本に同調して欧州へ特殊部隊を派遣するのであった。




 1939年末 満洲国 大連



 開戦から三ヶ月。やはりポーランドは守りきれなかったが、大日本帝国、アメリカ合衆国、大英帝国の共同計画・・・・・・在欧難民救出作戦の第一段はひとまず成功した。

 そして、沙羅もこの計画に当初から乗り気で、自らこの大連で日英との共同作戦に当たっていた。



「しかし、隠密作戦とはいえ、陸路で救出するにもかなり限界がありますね」



 ナチス・ドイツ支配地域、勢力圏から逃れてきたユダヤ人、日本人、スラブ人、そしてヒトラー言うところのアーリア人であるが反ナチの人々等の難民達を見ながら、日英の外務官僚に呟く沙羅。



「ええ、彼等には家族を置いてきたものもおります。しかし、今のところドイツ軍はかなりの力を残しており、飛行機や船舶での強行輸送等は自殺行為に等しく・・・・・・」



「ロシア軍がまさかあんな敗退するとはね・・・・・・」



 あんな敗退。独軍のポーランド侵攻に伴い、英仏と共に宣戦布告したロシアは、ポーランド領内に軍の派遣を決定し、万一のための露波国境線の防備強化を図った。しかし、ドイツ軍のあまりの進撃速度にロシア軍の動員は間に合わず、あっという間にポーランドはドイツに呑み込まれてしまった。露波国境線の防備強化も進行中であり、第一次欧州大戦で独軍に苦しめられた記憶を持つロシア軍は慌てたが、それでも国を守る為に必死で戦った。ロシア軍は精強ドイツ軍に対して当初は善戦していたものの、その長い国境線を守りきれず、10万以上の将兵の戦死者を出して遂には帝国構成国の一つ、フィンランド大公国が陥落したのであった。




「大統領、ロシアは・・・というより私達の英国もフランスも、連合国としては合衆国にも、日本にも本格参戦を要求しています。日本はこの救出作戦に支障が出ると暫くは中立の維持を言明していますし、位置関係から派兵に時間がかかるのも分かりますが、合衆国としてはどうなさるのですか?!」



 英国の外交官が沙羅に問う。沙羅個人としてはすぐ様応じて、早く戦争を終わらせたい気持ちはあったが、モンロー主義の残るアメリカ国民世論は合衆国とそれほど関係のない戦争に参加するのには懐疑的であった。



「正直に言いますと今すぐにでも参戦したいですが、我が国の世論が・・・・・・」



「そうですか・・・・・・しかし、アメリカとロシアの陸軍、海軍も我々イギリスのロイヤルネイビーとあなたがた合衆国海軍、そして日本のインペリアルネイビーも集まれば・・・・・・この巨大なシーパワーを持ってすれば、充分ドイツに勝てます!」



「ええ、それは分かっています」



 しかし、どうしたものか・・・・・・世論をどう参戦に傾けるか、まだ続くであろうこの難民救出作戦を考えた時、本格参戦してしまっていいのだろうか。日本のように連合国寄りの中立のままで・・・・・・結論は未だ出ずにあった。





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