真実
折角なのでアメリカ大陸の鉄道の歴史でも書こうと思ったが、色々読むのがめんどくさいので省く事とした。この国建国当時からとんでもないペースでめっちゃでかくなってるもん。さて、合衆国大統領エリザベスこと沙羅は、夏のバカンスを利用してロサンゼルスの日本人街、リトルトーキョーへとやって来ていた。このロスのリトルトーキョーは、その名が示す通り西海岸諸都市やハワイに数ある日本人街の中でも随一の規模である。
「やっぱいいわねえ、匂いがいいわ」
「喜んでいただいて何よりです」
「それにしてもこの時間だとなあ・・・開いとる店は開いとるけど、閉まっとる店は閉まっとるもんねえ」
「大統領、それ当たり前ですよ」
「いや、ほんとそうなんよ。開いとる店は開いとるけど閉まっとる店は閉まっとるし、開いとる店やったら開いとるけど、閉まっとる店やったら閉まっとるからね」
「ちょっと怖いですよ」
「いや本当に。開いとる店やったら開いとるけど閉まっとる店やったら「shut up!!」
「大統領、いい加減にしてください」
「SorrySorry岡田総理」
「は?」
「いやいや、ジョークよジャパニーズジョーク。そんなカリカリせんでもいいじゃない」
「はぁ・・・・・・」
このババア本当になんで合衆国の大統領になれたんだろうと、違った意味でまた恐怖を覚えるマイク補佐官である。便宜上名前は付けたが、これから何人ものマイクやジョージや太郎や花子やパトリシアが出てくる事をここに宣言しておく。ごめん、パトリシアは出てこないかも。
「でもさ、やっぱり本当に小東京って感じでいい街じゃない」
ちなみにこの世界ではアジア系を対象とした移民排斥法は存在せず、ここロサンゼルスのリトルトーキョーの日系人達も、アメリカ市民として社会に溶け込んでいた。郷に入っては郷に従え、つまりよきアメリカ市民たることがよき日本人たらしめんと、太平洋を挟んだ遠い祖国から身一つでやってきた一世達の間でも合言葉となっていた。
「大統領、そもそもなぜあなたはそんなにも日本や日本人に拘るのですか?」
ジョージ補佐官がエリザベスに問う。この国で生まれ、白人で、一番近い同盟国の英国やロシアでさえも腹の底から信用しているとは思えない極東の島国、大日本帝国に肩入れする彼女。友好国であるとはいえ、なぜ彼女がそこまで日本に入れ込むのか、選挙の時はそんな事は口にしてなかったのにと、彼も他のスタッフらも、政府内部や軍からも不思議がる声は少なくなかった。
「うーん・・・・・・」
沙羅はジョージの質問に対する返答を迷っていた。真実を話しても信じられるとは思えない。でも、自らが日本との関係へこだわる事に彼や合衆国市民、主に白人達が疑問を持つのは当然。どう答えたものか・・・・・・
「大統領?」
「あっ、ごめん。私がなぜ日本という国にこだわるのか・・・・・・それはね、私が日本人だからよ」
いくら悩んでも、結局いい嘘が思い付かず、沙羅は真実をマイクやジョージらこの場にいるスタッフ達に告げた。
「はっはっはっ、大統領、御冗談を」
「そうよね、信じられないと思う。でも、おかしいと思わない?こんなおばさんの私がちょっと猛勉強しただけで日本語で松岡外相と話したり、通訳も連れずに日本で脱走したりさ」
「確かにババアがそんな短期間でとは思いましたが・・・・・・」
「あ?」
「すいません、ちょっとジャパニーズジョークにイラついてたのでアメリカンジョークをお返ししようと」
「まあいいわ。それで私の話、信じる?」
「そう言われましても、俄には信じがたいものです」
「それでいいのよ。私も知っていながら、この歴史の流れに生きてるんだから」
太平洋は分からない、ソ連は存在しないにしても、ナチス・ドイツ、ファシズムイタリアの動き、それに対する英仏や欧州の動きは沙羅の知る歴史のそれと似通っており、これから起こる事も予想はできた。
しかし、ドイツ人でもイタリア人でもポーランド人でもイギリス人でもフランス人でもない、外見はアメリカ人で中身は日本人の沙羅にとって、わざわざ欧州での歴史を変えるために動くのは、躊躇いがあるのだった。
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