現実




 1937年3月



 沙羅は転生してすぐ、この世界の奇妙な歴史の流れを知った。

 まず日露戦争で日本は惜しくも負けた(実質、不利な条件の講和を列強に呑まされた)事、それの影響でロシア帝国は第一次大戦でも史実と違う経過を辿り、立憲君主国となって存続している事。

 日英同盟、英露協商等が継続、国際連盟常任理事国は日英露仏伊となって、米国は史実通り加盟していないが、満州問題も前世と全く違うもので、日本が脱退していない事。

 その満州事変が日英の陰謀で仕組まれたであろう事・・・・・・兎に角、20世紀以降の日本に関する歴史の流れは沙羅の知るものとは全く違うものだった。



 March 7 1937 Washington D.C White House



「大統領、今度の日露外相との会談ですが・・・・・・」



 面倒臭いので英語をカタカナにするのはやめるが、側近が今後のスケジュールについてエリザベス=沙羅に書類を渡す。



「それにしても書類多いね、なんとかなんないの?」



「大統領、なんとかと言われましても、間違いがないようこうして書面で色々やっておるわけでありますよ」



「分かるけどさぁ」



「それに、防諜を考えても書面で色々やった方がいいわけです。というか就任当初から文句言ってますけど、まったく何回目ですか」



「まあまあ、そうカリカリしないで。で、日露外相との東京会談だけど、スケジュール見てたらさぁ、ゆっくり東京観光する時間なくない?」



「当たり前です、仕事ですよ?!立場考えてください!」



「でもさぁ、せっかく東京まで行くんだし。それに、なんで東京行くのに首脳会談ないの?」



「今回はそれ程特別な会議というわけではないですし、三国の懇親を深めるという名目でですね」



「じゃあ、国務長官でよくない?私が行く意味なくない?」



「言われてみれば・・・・・・」



「でしょ?」



「いやいや、そうは言ってもですね。やはり、日露の過去についても大統領はよく勉強されておりますし、国務長官はあの・・・あまり言いにくいのですが、黄禍論を支持しておりまして・・・・・・」



「え、私さ、閣僚選ぶ時そこだけは気を付けてたんだけど?」



「しかし、やはり大統領が女性であるという事と、大統領ご自身の日本やアジアへのこだわり等があまり良いイメージを持たれる人間は我が合衆国連邦政府内部には少なく・・・・・・」



「つまり、大統領の意思が無視されたって事ね。まるでルーズベルトから政権引き継いだトルーマンね・・・・・・」



「トルーマンって誰ですか?」



「いえ、なんでもないわ。そーれーで、そんな重要な会議じゃないなら暇な時間くらい作れないの?」



「あのですね、大統領の仕事はそれ以外にもいっぱいあるでしょうが。外国で遊んでて支持率下がったらどうするつもりですか?」



「支持率の話なら就任当初から低いし大丈夫よ」



「あのね・・・だからこそ、これ以上下がらないようにせんといかんでしょ!」



「えー」



「えーて・・・・・・」



「それとさ、日本は日露戦争で惜しくも負けたけど、なぜイギリスとあんな事を起こしたんだっけ?」



 この世界では日露戦争で日本は惜しくも敗北。結局、満州の利権は取れず、ロシア帝国は朝鮮北部をもその支配下に入れる事になった。

 しかし、その後日英露は新たな火種を避ける為に協商関係を結び、欧州大戦の結果、支那大陸や朝鮮半島で三国は利権を分け合い、樺太でも日露が共同利権を持つ事になった。

 そんな情勢の中、日英は満鉄爆破事件をロシアの革命勢力の仕業と宣伝し、ロシア帝国も黙認・・・というより、ロシア当局も協力の元で満州国を成立させたのである。



「大統領、満州での一件はロシア国内の革命勢力の仕業だと最終結論が出ています。それに、日英露は友好国です。真相はどうあれ、今度の会談でもその辺の話は慎むようにお願い致します」



「そうよね・・・・・・(真相はどうあれか・・・・・・)」



 この世界の日英露は少し危ういと沙羅は思うが、この三国を相手に戦うのも現実的でないと、沙羅は現在の友好関係を継続する事を決める。

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