歴史


 1936年12月



 米国史上初の女性大統領エリザベス・ジョンストンとして転生した井浦 沙羅日本国陸軍上兵曹。

 彼女はまず、対日政策に力を入れる事と決め、これまでのこの世界での歴史を学んでいたが、そこである奇妙な事に気付く。



(日英同盟がまだ続いてる・・・・・・?それに日露同盟?なんで?あの神様は、歴史の流れは変わってないとか言ってたはずよね?めっちゃ友好国やん!)



 この世界では軍縮もスムーズに進み、日本は英仏伊と国連常任理事国に居座ったままであった。それに、満州事変の記述を見つけたが、その経緯も沙羅の知っているそれとは全く違うものだった。

 まず、張作霖爆殺事件やその後の満州事変のきっかけである柳条湖事件は、日本の関東軍ではなく、というか関東軍などという帝国陸軍の組織はこの世界の日本に存在せず、ロシア革命勢力の陰謀で引き起こされたと断定されており、それに呼応して中国領内の権益保護を名目に日英連合軍が満州に進駐を開始・・・・・・そして、日英は溥儀帝を担ぎ出して、満州は独立。日英はこの国を間接的に支配。満州国政府の中枢は日本人と英国人が多く占めた。

 この事件で日英は中華民国から非難を受けたものの、国民党政府は逆に国内の不安定さ、統治能力の不足を列強に指摘され、日英は満州国での積極的外資受け入れを表明し国際世論をも味方につけ、支那大陸から東南アジアにおける両国、そしてアメリカの三国による覇権を確定させたのである。




(この世界ではここまで日英米の友好関係は盤石・・・・・・日本とイギリスは満州国の経済市場の自由化でアメリカの門戸開放政策を上手いこと乗せた。でも、満鉄や重要な土地の権利は両国は手放してない。それじゃ、私は一体どうすれば・・・・・・)



 しばらく逡巡した後、沙羅はこれまでの日米関係の資料を手に取った。



(ペリー来航・・・不平等条約・・・明治維新・・・日清戦争・・・ここまでは一緒ね。問題はこの先よ。日露戦争で何か変わるはず・・・日露戦争・・・・・・あった。え?どういう事?旅順閉塞失敗は私達の世界でもあった・・・でも、その先は確か、黄海海戦で勝利したり、旅順でも陸軍が犠牲出しながら攻略して・・・・・・あれ?奉天会戦の大敗?確か、最後の大規模会戦よね。私の記憶じゃ、ロシア軍は士気が低下してて、度重なる伝言ゲームのミスで混乱して最後は降伏したはず・・・・・・なのに、日本陸軍の大敗?バルチック艦隊も日本海を通らずに、連合艦隊の追撃は失敗・・・・・・日本、惜敗?!一体、これは・・・・・・)



 歴史の分岐点はいくつもある・・・・・・自らが転生する前にももしかして・・・と、沙羅は資料を見つめながらその奇妙な世界の姿に心を揺さぶられる。


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