防人娘の見る夢は

侑李

転生




 202X年


 とある予測発表をきっかけに、地球上の各地でエネルギー問題による紛争が勃発。

 日本もエネルギー資源の大半を輸入に頼る以上、傍観とはいかず、軍隊の派遣を決定。

 数年前に自衛隊から国軍化されて以来、戦後日本初の武力行使を前提とした部隊派遣であった。

 そして、この派遣軍の中に井浦いのう 沙羅上等兵曹も参加。敵対勢力との戦闘の中で、彼女は敵弾の直撃を受け、見るも無残な姿で戦死した・・・・・・はずだった。




(あぁ、お父さんお母さんごめんなさい、生きて帰るって約束したのに・・・・・・)



 沙羅は闇の中で、自我が溶けるのを待つ。



(災害派遣の自衛官に憧れ、自衛隊に入って・・・国軍化の時には、新しい綺麗な兵服に喜んだりして・・・・・・でも、もう・・・・・・)



 短い人生の思い出を見つつ、沙羅は闇の中で目を閉じた・・・・・・が



(・・・・・・・・・眩しい?あぁ、そっか、私は天国に行けるんだ・・・・・・よかっ・・・・・・て、あれ?)



 闇の中で異様な眩しさを感じ、目を開く。



「・・・・・・あの、ここは?」



 目を開けるとそこには、光が溢れ闇一つない、幻想的な空間が広がっていた。

 そして、そこに立つ眩しい影・・・・・・



「ここは、世界の門。彷徨える魂を導いてあげる所よ」



 あぁ、これは最期の夢だ。それなら、完全に闇に溶ける前、存分に楽しもうと沙羅はニヤリと笑い、問う。



「世界の門か・・・・・・それじゃ、私を熊本の両親の元へ帰してくれるの?」



「無理よ。あなた、死ぬ時にバラバラに吹っ飛んだし。体があれじゃ魂戻したって一緒よ」



「そんなハッキリ言わんでも・・・・・・じゃあ、ラノベみたいにチート転生とかできるの?」



「うーん、まあ小説みたいに魔法とか使えるわけじゃないけど・・・転生する時代とか人とか地域によってチートにできたりもしなくも・・・・・・」



「あんた、神なのにいい加減ね」



「日本には八百万の神がいるんですから、私みたいのもいますよ!」



「え、ここ日本からかなり遠いのに、わざわざ出張ってんの?」



「当たり前です!日本人の魂は日本の神が導かねば!それで、現在転生可能なコースはですね・・・・・・」



「コースとかあっとや?!」



 驚きのあまり、つい方言になる沙羅。というより、この夢はいつ終わるのかと、多少イライラしていた。



「ねぇ、ふざけてないでそろそろこんな茶番終わりにしてよ。私、死んだのよ!なんで死んでまでこんなイライラしてんのよ!」



「体はね。でも、現にこうして貴女の魂は生きてる。あなた、迷ってるのよ。このまま消えてしまうか。それとも一縷の望みにかけるか。それにこれは夢じゃない、現実よ」



「は?」



「彷徨える魂を導く・・・時には消してしまう・・・成仏させるか、それともどこかに転生させるか・・・それが私達、霊魂管理局の仕事」



「神様の世界も事務的なのね」



「そりゃね、人って毎日誰かしら死ぬし」



「確かに・・・・・・で、さっき転生のコースがどうとか・・・・・・」



「あぁ、それね。いわゆる異世界ってやつ?俺TUEEEEとかやるやつはやっぱりいつも満杯だから難しいけど、過去転生って結構空きがあるのよね。歴史改変しちゃうと、色々面倒だと思うみたいで」



「未来とかも行けるの?」



「ええ、行けるわ。でも、皆すぐここに戻ってきちゃうの。なんでかな・・・まあ、私は過去転生をおすすめするわ」



「でも歴史改変しちゃうのは・・・・・・」



「大丈夫、木の枝みたいに世界線はいくつも分岐してくから。そういう意味では異世界みたいなもんね。例えば、あなたが過去で明治維新を失敗させたって、その世界では幕府存続が正しい歴史になって分岐してくから。実際の平成の時代にあなたという存在が生まれなくても、あなたはその過去で生きた人として記録に残るから」



「ほう・・・」



「でね、過去転生といっても色々コースはあってね、今だと飛鳥時代の皇族コース、戦国時代の大名の側室コース、江戸幕府の老中コース、大日本帝国の華族令嬢コース等ございますが?」



「どれも生き苦しそうじゃねーか!」



「えー、じゃあ海外ですか?」



「何がえーだよ。昔の、子供の私に戻すとかできんのか?!」



「それはですねー、天界の法律では彷徨える霊魂の自らへの逆行転生は禁止されてましてー。抜け道はあるんですが((ボソッ」



「なんでだよ」



「んー、やはり一度死んだ人間を生き返らせるようなものですし、何より生まれた時から未来の事とかのいらぬ知識は持たぬ方がいいだろうと」



「なるほど・・・・・・で、他のコースは?」



「そうですねえ・・・海外となると私の権限では、ソ連軍ジューコフに転生とか、日本海海戦の東郷元帥に転生とか、東條元総理に転生とか、1930年代の米国大統領に転生とか?」



「急に近代多いな!てか、お前の権限こわっ!なんだよ、ジューコフとか東郷元帥とか、東條さんとか!それに最後!米国大統領ってどういう事や!」



「そうですねー、実際にフーヴァーやルーズベルトに転生する訳じゃないんですが、あなたは米国初の女性大統領として、1936年のアメリカに転生するんですねー」



「わぁ・・・・・・」



「あ、でもね、いい事ばかりじゃないですよ?世界恐慌とかの歴史はそのままですし、ちょび髭おじさんもドイツで政権握ってますし、何より下手すると、日本と戦争に絶対なりますよ?まあこっちの世界線だとそれはないか(ボソッ」



「(なんかボソッと・・・?)ちょび髭おじさん言うな。それ言うならスターリンもちょび髭おじさんやろうが。まあ、兎に角それがなんか一番強そうだし、それで!」



「はい、かしこまりました。それでは、行ってらっしゃーい!」



 ふざけたような眩しさの神がふざけたようにそう言うと、沙羅の魂は再び闇の中へと戻った。




(なーんだ。やっぱり夢か・・・・・・)



 そして、闇へ沈むのを待つ沙羅だったが・・・・・・




 1936年 12月 米国 ホワイトハウス



(でも、最後にいい夢見れたな・・・・・・)



 den•••pre•••••president!



「・・・・・・ah・・・」



 沙羅は誰かが呼ぶ声に目を覚ます。と、同時に日本語を話そうとするが、言葉が出てこない。



「ン・・・ココハ・・・ホワイトハウス?!」



 ※カタカナは英語と思うように



「ナニイウテンネンダイトウリョウ、マダネボケトンカコラ」



 この側近の英語は少々訛りが強いようだ。



「ア、イヤ、ダイジョウブヨ」(やだ、本当に転生したの・・・・・・?)



「シッカリシナハレヤ。ホンデ、アレノコトデスケドナ・・・・・・キイテハリマスカ?」



「ン?アァ、キイテルキイテル」



(やっぱり夢じゃない・・・・・・!じゃあ、後は対日政策に口出ししまくって・・・・・・ってもなあ、この時代の人種差別えげつないんよなあ・・・・・・・・・)



 前途洋洋とはいかないのは分かっている上、この世界ではなんとかあの戦争だけは回避しようと沙羅は決意し、転生初日を終えた。













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