エピローグ

「−−待ってましたよ。お帰りなさい」

「思ってもいないことを」

「そんなことないですよ。予想より少し遅かったので、面白いことでもあったのかと」

重く、大きな扉の隙間から中へ入り、暗闇に包まれた玉座へ歩み寄る。

普段であれば側に置いている”あいつ”の姿はない。

退屈そうに頬杖をついていたあたり、待っていたというのはあながち間違いでもなさそうだが。

この少女のことだ。

どうせ”青の貴婦人あいつ”の様子を観ていたに違いない。

「逆だよ。面白くもない結果に終わった。期待するだけ損だったぜ、まったく」

「期待していたんです? ああ、少しは捨て駒として利用できそうだった、と。そういうことですか。相変わらずひどい人」

「お前にだけは言われたくねえ」

一呼吸置いて言葉を続ける。

「……人間なんて、所詮定められたレールの上を歩くことしか道はねえのかって思っただけさ」

「おやまあ、今日は随分と弱気じゃないですか。わたくしは兄君じゃありませんから、肯定も否定もしませんわよ」

それとも慰めて欲しいんです?

面白いものを見た、と言わんばかりの悪どい表情を浮かべてくる相手に、やっぱり口にすべきじゃなかった、と後悔する。

確かに珍しく感傷的になっている。

これ以上ここにいようものなら、失態を晒すだけだ。

最低限の報告はした。詳細は後日文面にまとめて提出すればいいことだし、今日のところは早々に退散するほうが賢い。

「でもまあ」

そう結論づけ、踵を返したところで。

少女は乳白の瞳で虚空を見つめて口を開く。

「そうだからこそ、それに抗わんと必死になって、がむしゃらに行動するんじゃありません?」

「……そうだな」

気に食わない。けど、その意見には賛成する。

振り返ることはしない。

いくら主人と従者という立場だとしてもそこまでやってやる義理はないし、何より相手もそれを望んでいないから。

ただ、自分たちの目的のために。



−−運命に出会い、運命に逆らい、運命に見放された者のものがたり。

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