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頭に浮かぶのは子どもの頃に繰り返し聞かされたおとぎ話だ。
敵対する勢力の男女が恋に落ち、困難の末に結ばれて、平和が訪れる。
熱烈で刺激的な夢物語。世界には運命の人がいて、目を合わせれば気持ちが通じ合ってしまう。
非現実的、しかし理想だからこそ起こりうる現実。
そういうものなのだと信じて疑わなかった−−−−。
あまりの人の多さにざわついていた声も、数が減ればその一言ひとことを聞き分けることができるようになっていた。
悲鳴をあげるもの。助けを求めるもの。愛する者の名前を呼ぶもの。憎しみに恨みを吐くもの。
どれもこれもすべて自分が招いてしまった悲劇で。
祝福してくれるはずだった人々の声は、もはや雑音になり果てていた。
聞きたくない。聴きたくない。ききたくない。キキタクナイ。
「−−どうしようもない馬鹿息子がっ……最後の最期でなんという失態を……」
文句なんて聞きたくない。
どうすれば聞かなくて済むか、なんて簡単なことだった。
最善策は、この最悪な状況を作っている当事者を退場させること。
だけれど、結論から言って、あの
戦闘および防衛を専門とする騎士団への連絡も、今更したところで間に合わない。
であるならば−−−−。
選択肢はただ一つ。
「……これが僕に与えられた運命、か」
視線を下げる。
広げた手のひらには、大きさの異なる白磁の指輪が二つあって。
一度離れていたからか、さりげなく施された小さな石が仄かに光を放っている。
かつて、呪いの子と恐れられていた乙女が湖に住まう一角獣から授かった契約の印であり、結婚を求める際に、相手へ送る婚姻指輪。
それを指にはめ、最愛の人と並ぶことを夢見る日々は過去となっていた。
瞳を閉じる。
心に決めた彼女の顔は、ぼやけてもはや覚えていない。
代わりに浮かび上がってきたのは、幼さを残した容姿ながらも、時には姉のように世話してくれた幼馴染。
意識すると同時に、脳裏をかける彼女との思い出。
同じ瞬間、同じ時を過ごし。共に笑い、悲しみ、困難を乗り越えて。
ああ、もしかしたら−−。
「−−−−そこにいたのか、僕の運命は」
瞼をあげ、空を見据える。
執事の話だと酷いことを言った彼女は今頃、少し離れたところにある世界最大級の都市へ向かっていることだろう。
寂しかった。そばにいて欲しかった。
けれど。
それが唯一の救い。
「−−ありがとう。愛してる、テラ」
やっと見つけれらた運命の人へ。
届かない気持ちを告白する。
同時に決心したのは、ひとつの覚悟。
ぐっと、手に力を込める。
その為なら、僕は−−−−。
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