第8話 春の虫と書いて蠢くと読む
緊急総会
花散らしの冷たい雨が降る、月も星もない夜に、《平安陰陽学会》の緊急総会は、首席の住う
日が沈むのを待ってから、傘をさして集まって来る陰陽師たち。
今夜の総会は、妖花も出席した年末の臨時総会とは異なり、広間全体に座布団を敷き詰めて並べ、皆が一様に御三家の旗が掲げられた、上座を向いて座るようになっている。
静夜たち《陰陽師協会》の人間は、下座の
「うわぁ……。室長から聞いてたッスけど、ほんとに陰気でヤな感じッスねぇ。先輩、この重苦しい空気、なんとかならないんスか?」
「僕に言われてもどうしようもないよ」
「じゃあせめて、替えのストッキングでも用意して下さいよぉ? 来る時水溜り踏んじゃって、足元気持ち悪いッス」
「男の僕が、そんなもん持ってるわけないじゃん」
「えぇ! でも、先輩のお友達の
「なんでアイツは、女性用のストッキングを携帯してるの?」
それ以前に、いつの間に康介は、
「我慢できないなら脱げばいいだろう?」
小声ではしゃぐ姉妹を
「うわぁ、舞桜ちゃん、こんなおじさんばかりが集まるところで
「そんな短いスカートでここへ来ている時点で今更だ。少しはTPOを弁えたらどうだ?」
今日の二人は、薄手のブラスにカーディガンを羽織り、太ももを大胆に露出させたミニスカートを穿いて、姉妹で色違いのコーディネートをしていた。
春に浮かれる大学の新入生としては、おしゃれに気合を入れたそれらしい格好で、キャンパス内ではさぞ男子学生たちの視線を奪ったに違いない。逆に
おかげで、《平安会》の陰陽師たちから向けられる視線が、先日の時よりもさらに厳しくなっていて静夜は落ち着かない。
「……チッ、うるさいぞ、お前たち。いい加減静かにしろ」
舌打ちは、静夜のすぐ隣から聞こえて来た。彼らの
事故物件の再調査の時のような突然の呼び出しならともかく、さすがに《平安会》に属する陰陽師たちが一堂に会する総会には、京都支部の全員が揃って顔を出す必要があったため、静夜はとりあえず、この五人全員がこの場に座っているだけでも上出来だと思うことにした。
欲を言えばこの総会で、面倒事が何も起こらずに済めば尚良いのだが……。
高座に、御三家の出席者たちが登ったのだ。
彼女の登場には、会場が僅かにざわめく。
羽衣が総会に出席することは滅多にない。ましてや、華やかな
あの少女がいるというだけで、この総会の異様さと異常さが屋敷に集まった陰陽師全員に
「へぇ〜、あれが噂の……」
萌依が品定めをするかのように、羽衣の姿を見て舌舐めずりをする。
隣に座る萌枝も、彼女の様子を遠目に観察して、隙を伺っているようだった。
「……やめときなよ、二人とも」
あの娘に喧嘩をふっかけるようなことはしたくない。
直接その力を目の当たりにしたわけではないが、下手をするとあの竜道院羽衣は、月宮妖花すら片手であしらってしまう程の力を持っているかもしれないのだ。
「……星明兄上は、まだ包帯が取れないのか……」
舞桜は、また別のところに注目して声を漏らした。
父である才次郎氏の後ろに控えて座った星明は、絡新婦の妖から受けた傷がまだ癒えないのか、包帯で腕を吊ったままの状態だ。
竜道院の本家で本格的な治療をしてもすぐには完治しないほどの重傷だということなのか。
「――それでは、皆さんお揃いのようですので、これより、《平安陰陽学会》の緊急総会を始めさせていただきます」
会場内の動揺が少し収まったのを見計らって、前回の臨時総会と同様に司会を務める京天門政継が声を張った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます