第30話 運を塗りつぶせ
ゲームにおいて『運』とは『確率』だ。
その要素は、時に製作者ですらよきにしない状況を作り上げる。
その酷さによっては、クソゲーとも運ゲーとも足らしめるであろう。
だから一重にジャンルによって、節度あるコントロールが必要とされる。
シュミレーションゲームやらカードゲームなんかは、プレイヤー自身が運をひっくるめて楽しむという土台が有りはするのだが。
ただ一つ。
ことプレイヤーの腕のみで競い合うアクションゲームなぞに組み込むなど、俺は断固として認めない。
「なんでだ! さっきから銃弾が、明後日の方向に行ってしまうんだけど‼」
「恐らく彼らの加護かと! 攻撃の命中率が、明らかに低くなっています!」
相手に向けて発砲する銃弾は、ことごとく空射ち。
それどころか、マミヤさんの戦闘域にまで無造作に飛び交い、結果的にボゼたちの援護をしてしまっている。
遠距離の攻撃では無理だ!
俺はすかさず武器を切り替えて、片手剣に乗り換えた。
「接近戦なら運要素も絡まないはず!」
スカ! スカ!
相手は回避に成功……うそん!
効率的な動き方ではない。むしろ戦闘において緊張感の無い、変な踊りを交えた動きにあるにもかかわらず、ボゼは攻撃をことごとくをかわしていく。
マミヤさんのだってそうだ。攻撃を避けられ、砕かれた地面の飛び散る破片が結果的にこちらに降り注いだ。
ハルハルの片手剣に破片が直撃し、手元から飛び立った挙句、ボゼの足元へ。
「きっきっき!」
「げえ! 奪われたあ‼」
仮面の表情が、ニヒルな笑みへと変わる。
戦況が、全くこちらに傾いてくれない!
これが運を味方に付けるってことなのか⁉ 全くもって理不尽!
ボゼは玩具の剣を片手に、タップダンスでも興じるように近寄ってくる。
あの強運だ。どんな攻撃でも
その前に速く手を打たねば!
「あ! そうだ、こんな時こそ、キンマから貰った武器‼」
戦闘の激化に、つい忘れてしまっていた。
俺はすぐさま武器ウインドウを展開し、彼女から受け取った装備の欄を連打してしまう。
そうやって光と共に現れたのは――『ウォーターガン』。
俗に、子供が水遊びなんかで使う、あの玩具である。
「こんなのでどうやって相手しろってんだーーーーっ‼」
「ぷぷ!」
ボゼ側も脅威を感じなかったのか、仮面のラインが青へ変わると同時に嘲笑を漏らした。
そりゃ同然だ。
ここは、インクを片手にフィールドを塗り替える、某イカゲームとは違うんだぞ⁉
ましてや敵を倒す、リアルアクション寄りだし!
「キンマ様の考えあってのことです! とにかく使ってみて下さい、
「くうううう! どうなっても知りませんからね!」
もうこうなりゃ、やけだ!
俺は回避されるのを防ぐためにも、相手へ急接近しながら、銃口を構え、ハルハルにトリガーを引かせる。
と同時に、ボゼも剣を横に滑らせてきた。
飛び出していく、泥のような黒塗りの液体。
それが数発と、断続的に固まりとなって空を切り。
ボゼの身体に命中した。
「うきゃあ!」
「当たった⁉」
相手も驚きで、剣を地面へと落としていた。
身体にべっとりと付着したインクを手で摩り、ボゼは怒りに地団太を踏む。
ダメージは見受けられない。
「だけど、なんで当たった?」
ハルハルが放った銃弾は、ことごとく阻害されていたのに。
培ってきたゲーマー的感覚を働かせ、そしてもう一つ、気になる点が視野に入る。
そう言えばコイツ。怒っているのに、仮面の色が変わっていない……。
そして思い至る――奴らの法則性。
「もしかして!」
すかさずハルハルに、ウォーターガンを発砲させる。
インクは難なく目前のボゼの仮面に命中し、にもかかわらず仮面は赤に変化しない。
「分かりましたマミヤさん! こいつら、仮面が赤くないと運を味方に付けられないんです! もっと言えば、身体を傷つける攻撃や殺意にしか効力を発揮しないのかも‼」
「そうでしたか⁉ ですがそれでは、結果的にダメージを与えられないのでは?」
「いえ、マミヤさんも言いましたよね? 奴らにとって仮面は『命』、幸運の源。なら、それを汚されたならば!」
目の前の個体は、仮面を黒に汚されている。
ハルハルがウォーターガンから銃に持ち直すや、相手は危機感に剣を構えて突撃。
しかしその攻撃は、俺へ届くことなく振り下ろされた。
功を焦らせたのだろう。更に剣は地面へ直撃した途端、亀裂を走らせ先端部位が異様な旋回で持ち主の仮面を貫いた。
結果――。
「きいいえええ……‼」
眷属の一体が、煙を巻いて消滅した。
砕けた仮面が音を立てて落下し、一様に衝撃が走る。
「逆に運気が最底辺に! そう言うことですか‼」
「攻略法が分かればこっちのものです! 残り二体!」
『ひいいいい‼』
俺はすかさず残りに狙いを定める。
まずはマミヤさんと交戦していた敵を狙い、先ほどのインクを射出。
仮面が黒く塗り潰され、敢え無く相手は背を向けて走り去る。
「アレは私が!」と、マミヤさんが後を追う。
もうこうなれば問題あるまい。
残りの一体に銃口を向けて、先ほどのお返しにとハルハルは頬を吊り上げた。
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