第28話 背けたい真実

 この世界が変貌を遂げて、気づけば二か月に差し掛かろうとしていた。


 季節が本格的な夏に差し掛かろうとしている間際ともあり、照り付けてくる太陽光は容赦なく頭上を熱してくる。お陰で汗が止まらない。

 そんな学校からの帰宅道中。日傘で身を守るお嬢様に、俺は問う。


「だから言ってますの。私、あの森での出来事は、ほとんど覚えておりませんわ」


「それってずーっとですか? 森に入った時から」


「いいえ、入った記憶はあります。それから森で迷って、そして私は見つけたんですわ。宝箱に入っている鉱石と小さな石を」


 小さな石とは、ヒーダマの根城である勾玉のことだろう。それに触れたせいで、西条さいじょうさんはマジムンに取り憑かれた。


「そこからが全く覚えておりません。気づいたら保健室でしたし……」


 珍しく西条さんは気落ちし、答える。

 ということは、ヒーダマは箱の中に一緒に潜んでいたってことになるのか?

 トラップ的な手口だな。

 マジムンってそこまで頭が?


「そ、そういえば、先日のその授業では、どうやら貴方が私を助けてくれたようですわね? い、一応礼は言っときますわ。ですからも、これからもし、私が困った時は」


「あ、キンマ。ごめん西条さん。俺ちょっと聴きに行きたいことがあるから、これくらいで!」


「あの、ちょ、ちょっと⁉」


 キンマの姿を見つけ、俺は駆け出していく。

 何やら後ろでは「き~!」と変な叫びを拾うのだが、余り気にしないでおこう。


「キンマ、お前に聞きたいことが、ってお前一人か? マミヤさんやシシリーは?」


 護衛である二人の姿は無い。珍しいことだ。


「マミヤは教師に頼まれごとが有ると。シシリーは先日、補習から飛び出てわらわを助けに来たからのう。その埋め合わせ中よ。それで春吉はるきち、わらわに何用か?」


「西条さんが、マジムンに取り憑かれた時のことなんだけど」


 掻い摘んで説明し、キンマは神妙そうに。


「恐らく、が意図的に細工したんじゃろうな」


「え? マジムンを? 一体なんでそんな」


「わらわがマジムンの気配を追えるのは、承知じゃろう? それなら森でいきなり出現した理由が納得できるのじゃ。そもそもヒーダマは人の瘴気で強くはなれど、知能が高い存在ではない。恐らく誰かが宝箱と一緒に封印して、開けた者に取り憑くよう細工しておったのじゃろう」


「故意的にか? それって、第三者が居るってことになるよな? なら、誰かが俺たちの邪魔をしている?」


「そう考えるのも当然じゃが、ことはより単純ってことも考えられる。マジムンは互い力を合わせたり、邪魔したりするような思考をしておらん。、あまつさえということは」


「そ、それって!」


 息を詰まらせた。

 彼女の言わんとしていることに、これ以上聞いていられなくなるほどに。

 その反応が妙に面白いのか、キンマは鼻で笑う。


「そうなったら用心することじゃな? もしかしたら元の世界に戻したいっていうお主の目的は、お主だけしか募らせていないのかもしれぬぞ?」


「笑い事じゃないって! そんなの……」


 俺は項垂れる。

 猜疑心が歩のスピードを減速させた。

 しかし状況は、俺の心境など嘲笑いながら動き出す。



「どうやら次のマジムンが近づいて来ておるな。一旦家に帰って備えなおすぞ」



 キンマに気にした風もない。

 なぜそこまで正気でいられるのだろうか。



 お前の言う条件に当たる犯人ってのは、詰まるところ『裏切者』が居るってことなのに……。

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