第26話 深まる疑問
マジムン、『ヒーダマ』と遭遇して、ほどなく。
「どうやら退治は済んだようだのう?」
最後の火の玉が空気清浄機に吸い込まれ、白い蒸気となって天に昇っていく。
それをまるで見計らっていたかのように、我らが神様は、無事な姿で帰還していきた。
「キンマ様~! 私頑張りました~! 撃退数は、こんな人間と比べ物にならないくらいに頑張りましたよ~‼」
「それはお前との道具に明確なテクノロジー差が」と言ったところで、キンマの足元へ犬のようにすり寄るシシリーに届くわけも無い。
まあ、今回は確かに役に立ったかもなだが。
「よくわらわの指示に素早く行動した。ほめてつかわす。それで、マジムンに取り憑かれていた人間は?」
「今は眠ってる。大丈夫なのか?」
戦闘を終え、俺は本来の姿に戻り、
俺の肩の上で寝息を立てている西条さん。
そんな彼女の制服のポケットに、キンマは手を伸ばし、ある物を取り出す。
「キンマ、それは?」
「ヒーダマが根城にしていた、“勾玉”じゃよ。この女はこれに触れたから、取り憑かれたようじゃな」
「なんでそんな物を西条さんが……。西条さんは大丈夫なんだよな?」
「問題はなかろう。精神を蝕まれて、少し気を失っているだけじゃ。それよりも随分と厄介なりんちゃー(やきもちやき)じゃな? 相当気に入られているようだな、
「弄りやすいってだけだろ? いつも西条さんには参ってるよ」
ため息をついて、心からの吐露。
それにキンマは半眼を作っていた。
「にーひらー(鈍い奴)め。まあ良い、3体目のマジムンも無事撃退できたからな」
そう言って一方的に背を向けるキンマ。
「おい、時々方言になるけど、俺そこまで詳しくないぞ? なんて言ったんだキンマ?」
「動きが鈍いと言っておるんじゃ。さっさとせんと置いてくぞ」
とんだ授業内容になってしまった。
しかし事件はほぼ解決したようで、俺たちはそれからすんなり森の脱出に成功。
そこで、姿の見えなかったマミヤさんが、急いで駆けつけてくれた。
「良かった。無事で何よりです。キンマ様。春吉様」
「マミヤさんこそ、いきなり居なくなって心配しましたよ?」
「すみません。私ともあろう者が、不甲斐ないばかりに」
「非礼は良い。今回はいろいろと想定外じゃったしのう」
「あれ? ってことはこのトレジャーハントの結果は?」
「誰も見つけられていません。他の者はマジムンの影響を受けていないにも関わらず」
「それならば問題ないぞ。その女のポケットに入っておる」
キンマの向ける視線の先。俺は西条さんを抱きかかえる傍ら、そのポケットから白銀にきらめく鉱石を取り出した。
「間違いありません。それが今回の目的、アダマンタイト鉱石ですよ春吉様」
「それなら話は速い。速く教師に見せに行ってこい」
「え、いやでも」
「お前たち、二人の手柄で良かろう。それぐらい、ばちは当たらん」
しっしと猫でも遠ざけるように催促された。
ぞんざいな扱いを受け、俺は仕方なく歩き出す。
春吉が遠くで教師に事情を説明していた。
それを眺めているうちに、マミヤがわらわに気遣いをくれる。
「キンマ様、随分と頬が膨れてますね? 何か悪いことでも?」
「今後は春吉に群がる者にも気を遣わんと思ってな。あやつが、そこら辺敏感なら要らぬ手間じゃが」
「そうでしたか。すみません、キンマ様。此度の件、私も相手の術中にハマり、対して身動きが取れず」
申し訳なさそうに頭を下げるマミヤ。
「確かに、面倒な相手だったわねー。神の力を阻害するだけでなく、逆手に取って閉じ込めるなんてさ。まっ! 私の力までは無力化できなかったみたいだけど!」
「そう言えば、シシリーさんは迷わずに済んだのですか? 何か対策が?」
「え? 勘で行ったら、遭遇できたってだけだけど?」
「え? たったそれだけで」
よく理解できないと言った風なマミヤ。
わらわは、「はん」と嘆息する。
「空を飛べるシシリーに、地上を流れる霧の効力は届きはせん。マミヤよ、今回に限り非礼は良い。わらわも軽率じゃったしのう」
それで今回の件は打ち切るのじゃが、わらわの心中には疑念が渦巻いていく。
マジムンが突如出現したことにも、都合よく依り代に適した女子に憑いたのも。果たして偶然か、それとも。
「そう言えばシシリーさん。貴方、補習だったのでは?」
「あ。ああ⁉ やばい! 教師をぶっ飛ばして急行しちゃったから、急いで問題解きに行かないと!」
「手遅れじゃな」
「そうみたいですね」
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