第24話 3匹目のマジムン
隣街にある小さな山は、俺が子供の頃よく来ていた場所だ。
開けた地に改築され、学校の行事なんかでピクニックの場所としてよく指定されていたし、遊び場としては充分な広さだった。
ただその、世界が変わってからは、面影なぞどこにもない。
まず、三倍近く土地面積は広がった。
見たこともない木々が鬱蒼とそびえ、天井に延びる茨のように入り組んだ木の枝は、太陽の光を嫌ってるみたいに遮断している。
時より、変な獣の鳴き声も耳に入ってくる。
「ところで気になったんだけど、シシリーはどうしたんだ? あいつなら、お前に付き添うはずだが」
「あやつは頭の出来が悪くてな。学校に居残って補習になったと」
天族が補習。今頃、人間社会に悪態ついてそうだな。
「今回はそこまで脅威があるとは思えませんし、シシリーさん無しでも大丈夫ですよ」
「まあ、こっちにはマミヤさんが居ますしね」
ヤラムルチの時とは違う。
キンマの最終兵器といっても過言ではない、頼れる人が居るのだから、俺の気分も幾分か落ち着いていた。
それにあの一件以降、俺の度量も上がったような気がするし。少しは頼れるようになったかなと。
『ぎぎゃあ‼ がああ⁉』
「うわああああ‼ でっかい鳥ぃい‼」
「落ち着いて下さい、
3メートル近いカラスが奇声を上げ、頭すれすれを横切っていく。
度量どうのと自信を付けた手前で、この惨状。情けないの一言だ。
「心臓が飛び出すかと思った。ん? キンマ?」
鳥が去ったにも関わらず、キンマは動く素振りが無い。
彼女は険しい顔つきであった。
「妙な気配が漂っておる。途端に強くなりおった」
「それって、マジムン⁉」
気を張るや、周囲に異変が表出する。
霧だ。
何処からともなく、森の奥地から流れ、あっという間に俺たちを飲み込む。
「マミヤさん、キンマを!」
コントローラーを準備しながら連携を取ろうとするが、俺は次の瞬間凍り付いていた。
マミヤさんは消えていた。
忽然と、影も形も無く。
「しまったな。マジムンめ、まさかこのような罠を――」
「おい? ちょっとキンマ⁉」
霧に埋もれたキンマの影が、ぼやけて消えていく。
手を伸ばした時には、彼女は居なかった。
「どうなってるんだ」
ヤラムルチと同じ、人攫いの類かとも思ったが、手口が違い過ぎた。
触れられた感触も、相手の正体も分からないなんて……。
これでは本当の神隠しみたいであった。
そしてこの時から、俺たちの3度目のマジムンとの戦いが、始まった。
「むかつきます! むかつきますわ‼ 何よあの方たちは⁉」
親指の爪を噛み、私は怒りを募らせます。
思い出すは10分足らず前までの、あの光景。
私が楽しく春吉さんを弄っていたというのに、いきなり横からしゃしゃり出てきたあの輩どもです!
あの方たちが来てからというもの、春吉さんの様相が、ほんの少し変わりました。
今までは、女生徒と口を利くだけでもテンパっていた彼なのに!
私ぐらいでしてよ? 異性を前に、感情をむき出しに喋る彼と会話できる女性は。
だというのに!
あんなにはきはき、自分からでも絡むが如き威勢まで見せて!
「これもかれもウーラとサーラが不甲斐ないから、って、あら?」
そこで私は歩を止めました。
後ろを付いていた、可愛い警護犬が居なくなっていました。
あの図体では、隠れられる場所もありそうにありませんし。
「一体何処へ。困った子たちですこと」
呆れ、授業もどうでもよくなってきた私は、適当に帰ろうかと思案していました。
しかし、私は再び歩を止めます。
光を見ました。
黄色く、うねる、か細い光。
それも、その光源がある場所だけ、霧がかかってぼやけていました。
「妖精さん?」
引き寄せられるように霧の中へ、私は小走りします。
霧の中を進むのは一瞬でした。少し進めば視界は鮮明になり、そして私は見つけたのです。
あらかじめ人の手で用意された、宝箱を。
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