第21話 探索

 戦闘が終わった。

 それと同時に、春吉はるきちの気配が消え、通信は途絶える。


「春吉め、油断しおったな」


「キンマ様どうしたのですか? まさか春吉様が……」


 わらわの不穏さに、マミヤは憂わしげに問いかける。


「案ずるな、まだ望みは有る。にしてもヤラムルチめ。ここまで悪意を内包しておるとは、相当面倒な個体に成長したことよ」


「で、ですがキンマ様。唯一奴の瘴気を追える春吉様が消えてしまったら、攻略は困難なのでは? このまま奴が人の魂を平らげて、力を付けたら……」


「信じるほかないな、春吉を」


 わらわの助言、忘れるでないぞ春吉。

 それがきっと、そなたを――。


「キンマ様~。結界の維持って、あとどれくらいですかね? 私、ちょっとお花を摘みに行きたいんですけど」


「そう簡単に終わるものではないな。せめて一日は辛抱じゃ」


「そ、そんな~‼」


 こちらもタイムリミットが近づいてるな。

 急げよ春吉!




 深海とは、こういうところなのかな?

 どこまでも続く、深く虚空の空間を俺は彷徨っていた。

 何も触れる感覚が無い。

 天井なのか地面なのかも分からない。俺は一体どこを進んでいるのか。


「速く、なんとか――て、ぶお‼」


 迷いを口にした矢先、俺の身体に重力が戻っていった。

 重い何かが、俺の背中を押し、そのままぐんぐんと押し込んでいく。

 俺は抵抗もできぬまま、やがて暗い空間の先に、淡い月明かりのような光源を発見し、そこを潜っていった。

 待ち受けていたのは、固い岩面であった。


「いてえっ‼ つう~。ここは」


 魂の俺に乗じて、ハルハルも目をぱちくりとさせる。

 俺はとある場所に出ていた。


 ここは、『鍾乳洞』⁉︎


 しかし普通とは違い、青みのかかった光沢を放ち、時折、黄色や緑色の光が交じり合いながら光は奥地へと流れていく。


「間違いない。夢で見た場所だ‼︎」


 立ち上がり確信するや、もう一つの足音が鼓膜を震わせる。


「ぶう~」


「オークの子。そうか一緒に連れてこられたのか」


 俺は周りを見渡した。

 マジムンの気配は一切しない。

 もし夢が本当なら、ここが奴の住処なのか?


「ぶぶぶ! ぶぶぶ‼」


「え? どうしたんだ、いきなり」


 オークがハルハルの小さな手を引っ張る。

 何を言っているのか、全然分からねえ。

 どうすればいいか、困っていると。


『音声ガイド、翻訳機能を作動します。許可してもよろしいでしょうか?』


 コントローラーの画面に、そう表示された。


「お、『音声ガイド』?」


 次いで、「はい」「いいえ」と、タッチ式の選択コマンドが浮かび上がる。

 ものは試しにと、音声ガイドを許可。


「ぶぶぶ、ぶっひ⁉ ぶぶ、ぶひぶひぶうう⁉」


『お兄さん、何者なの⁉ まさか、あの怪物を倒すために現れた勇者!』


「うわ! メッセージウインドウが浮かび上がった! これってコイツの言葉なのか?」


 マジでゲームのような画面だ。

 RPG風に、黒い四角の枠が、オークの真下に浮かび上がり文章を表示する。

 これでコミュニケーションが取れるということは。


『言語化に成功しました。こちらから話しかけたい時は、マイクに向かってお話し下さい』


 そうメッセージされるや、コントローラーの上部から、アンテナのような小さなマイク棒が突き出た。

 こんだけ多機能なのに、なんか古臭いな。まあいいや。


「ええっと、俺の名はハルハル。君の言う勇者かどうかは分からないけど、一応あの怪物を退治しに来たんだ」


 マイクに口を近づけて言う。

 するとハルハルが。


「うにゃ、うにゃうにゃにゃ。うにゃにゃああんにゃにゃ、うにゃうにゃにゃ」


『それじゃあ、本当に勇者さんなんだね⁉』


「伝わったよ……」


 これって、異種族だけではなく、他の外国の言葉なんかも通訳できんのかな?

 ついそう思ってしまえるほど、異種族との交流は感動的であった。


「ぶひぶひ! ぶひぶうう~‼」


「うにゃ、にゃにゃにゃん」


 傍からは何話しているか、全く分からんけれども。


 とにかく、会話は成立したのだ。

 俺はその後、子供オークから掻い摘んで経緯を聴き出した。

 この子の名は『メム』。

 この事件の事の始まりは、彼が昨日、駄菓子屋に足を運んだことが切っ掛けとなった。

 自分たちに良くしてもらっている婆さんが行方不明となり、同士を集って真相を探った手前で、ヤラムルチと遭遇。

 なるほど。昌司しょうじが行方をくらました現場に居たのは、この子だったのか。

 そして里に戻り、また奴に襲撃された。



“狙った獲物は何処までも追いかける”



 キンマの言葉に、俺は喉を鳴らす。

 ヤラムルチがこの街にはびこる限り、この騒動は終わらない。

 確信し、俺はコントローラーを操作するが。


「キンマとは繋がらない。仕方ない」


 俺はマイクに向け、ハルハルに切り替わる。


「メム。とりあえず事情は分かったよ。それでこれからのことなんだけど、俺はこの場所を調査しようと思う。もしかしたらここに、俺の友達や君の仲間が居るかもしれない」


『それって本当?』


 鼻をひく付かせて、小さい目に光を宿す。

 俺だって、メムに共感する部分でもあった。

 ここに昌司が居るのなら、手遅れる前に助け出さねば。


『そういえばさっき、あっちから変な叫び声を聞いた』


「叫び、声⁉」


 まさか、誰かがヤラムルチに‼

 頭にそう過り、取るべき行動は定まった。


「その場所に行ってみよう! きっと誰かが居るはずだ‼」


『声はずっと奥の方からだったよ、勇者様!』


「分かった、俺の背に乗って! それから勇者様はむず痒いから、ハルハルって名を」


『勇者ハルハル様、あっちからまた声が上がっるよ‼』


「なんかマジで、RPGの主人公気分って感じだよ⁉」


 ドラ〇エの主人公も、こんな気持ちなのかな?

 場違いにも想起する。

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