第16話 新たな脅威
皆でゲーセンを楽しんだ、その日の夜。
「む? 何やら妙じゃな」
「どうしたんですか、キンマ様?」
唐突にキンマが窓の暗闇に意識を向けた。
皆が手に持つ箸を一旦止める。
「一瞬だけ、変な気配を感じた。ほんの微かであったが間違いない。『マジムン』じゃ」
「それではこの街に!」
キンマは頷き、マミヤさんは腰を上げた。
「シシリーさん、
「ええ~夕飯途中に? ちゃんと食べてから行こう。このままじゃ、力が出せないって」
「そんな悠長な」
シシリーの意見に、鼻で溜息を付くマミヤさん。
しかしキンマも「待て」と制止し、一度瞳を閉じた。
「すでに気配が無い。街中でいきなり表れて、そしてまた消えよった。速い手際じゃ。もうわらわでも場所を特定できぬ」
「気配を消せる? それもいきなり現れるとは、どういうことですか?」
「瞬間移動みたいじゃのう。そんな面倒な能力を持った輩なぞ、居ないこと祈りたいではあるが」
キンマは瞼を開けて、コップのココアを飲んで一息付く。
「相手の目的が分からぬ以上、下手に遭遇するのも面倒じゃ。それに、今日は春吉もお疲れのようだしのう」
そしてやっと、皆が俺の現状に気づく。
ハルハルの瞼がトロントロンと等間隔で落ちては開き、半霊の俺自身も必死に意識を保っていた。
ハルハルの背中にあるランプが、ピコンピコンと赤く点滅する。
「あの、春吉様? 大丈夫ですか? 凄く眠たそうですけど」
「ああ、うん。聞いてはいるんだけどね……」
ハルハルから発する言葉は、いつもよりも倦怠気味。
魂であるはずの俺ですら、どうしてか疲労が伸し掛かってきていた。
「これがハルハルで居られることの、特訓の意味よ。長時間のハルハルの維持は、大分精神エネルギーを使う。ただ飯を食べて、寝るだけでも消費されていく」
「え、じゃあ、この特訓って」
「『身を持って知って欲しかった』というのが一つ。それから精神エネルギーの摩耗は、筋トレに似ている。鍛えれば鍛えるほど、ハルハルの長時間変身や能力アップに繋がる。まあ、これからは一週間に一度は、こういう日を設けた方が良いのかもな」
「それ、今みたいに、敵が現れたら、本末転、倒――」
ハルハルの身体が、色味を失い透けていく。
そこからは数秒も持たずして、魂として還元され、俺の元の身体に戻っていった。
意識は遠のき、溢れ出て来る洪水のような眠気に飲まれ、俺はテーブルに突っ伏して意識を絶った。
ぽちゃん……ぽちゃん……。
水滴が垂れていく音が、数度に渡って鼓膜を叩く。
(あれ……ここは?)
不思議な感覚であった。
声を発しようにも、喉から出ている様子は無く。
意識は強く保っているはずなのに、視界はよじれ、何かに触れている感触が見当たらない。
ここは俺の布団の中でも、ましてや部屋でもない。
(ここは、何処だ?)
強く念じるごとに、ようやく視界のぼかしが和らいでくる。
青みの強い風景が、他の色と混じり、形を成す。
やがて俺の前に、氷柱のように伸びた岩の天井が現れた。
俺は『鍾乳洞』に居た。
それも青く艶を光らせる変わった岩肌で、その洞窟は形成されていたのだ。
(どうして俺、こんなところに)
俺に問いに答える者は居ない。
しかしそれとは勝手に、俺の視界は次第に天井へと寄っていく。
ゆっくりと、氷柱の結晶が間近に迫り。
俺は見た。
氷柱の中に、見知った人間の顔が埋もれている事に。
(駄菓子屋の、おばちゃん⁉)
『誰だ⁉』
洞窟全体に反響する、濁った声質。
瞬間、俺は危機感を走らせる。
(だ、誰の声⁉)
『我が住処に、土足で踏み入る者。許さん……許さんぞ‼』
声は大きく、次第に近づいてきている。
意識へ必死に問いかけ、別の視界角度へと導こうする俺。
応じるように、視線は180度、反転していき――。
そこで俺の視界は、迫る何かの『大口』に飲み込まれる。
「うわああああっっ⁉」
悲鳴を上げ、布団から起き上がる。
額は汗を滲ませて、俺は息を荒げていた。
「なんだったんだ、今のは?」
普通の夢ではない。
くっきりと記憶に食い込み、一つ一つの描写が鮮明に浮かんでくる。
まさかハルハルで長時間、魂の状態になってた弊害か?
こんなデメリット、聞いてないぞ? キンマの奴め!
心中で悪態を付きながら、苛立ちで誤魔化した。
そう……思えばその時から、俺の戦いは始まってたのかもしれない。
たった一人の戦いが。
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