第13話 ゲーセンに行こう
特訓三日目。
「またですかマミヤさん⁉ 貴方一体何の了見を持って!」
「
「ハイ……」
「誰ですのよ、そのキンなんたらって‼ 私よりも、そんな奴の方が春吉さんの上に立つにふさわしいと⁉」
「先ほどから申してます。キンマ様は懐の深い方です。貴方のように、自分の利己だけのために命令するだけでは、離れていくのは当たり前だと思いますよ? そうですよね、春吉様?」
「ハイ……」
「全然、説得力ありませんわ⁉ むしろ貴方たちと絡むようになって、本人は眼が死んでるように見えますけど⁉」
「気のせいですよ。それでは我々はこれで」
完全なイエスマンと化した俺を、マミヤさんは特訓場(死地)へと牽引する。
納得のいかない
「春吉。今日はお主に、ハルハルの状態で夜まで過ごしてもらうぞ」
「え?」
「――と、その前に。お主のコントローラーを出してみろ」
そういう彼女に神具であるコントローラーを差し出す。
人差し指でコントローラーの中央をなぞるや、四角いホログラムウインドウに、アップデートの文字。
その下のダウンロードゲージがマックスになり、何かが更新される。
「ほれ、ハルハルに変身してみろ」
首を傾げる俺。
言われるままハルハルの姿になるや、そこでちょっとした変化に気づく。
「なんだこれ? 背面に吸盤みたいなのが」
ちょうど後頭部に当たる位置だ。
赤い丸みの何かが皮膚にぴったりと吸い付いている。
大きさもそれほどではなく、見た目的には些細な変化。
「昨日の件で、ハルハルの敗北は予想以上にお主に負担がかかると思ってな。せめてもの処置じゃ。それはいわゆる危険信号を発する装置よ。お主の精神エネルギーが消耗すれば、それに応じて点滅する」
「どこぞのヒーローのカラータイマーみたいだな。でも結局可視化するなら、やっぱ体力ゲージみたいなのにすれば?」
「ゲージで表示してしまえば、明確すぎて気負う可能性が有る。昨日も告げたように、ハルハルはお前が気負えば途端に弱くなるからのう。その点、シグナル調なら、少しはやんわりと物事を考えやすいはずじゃ。やばくなったら気を落ち着かせるなり、状況を冷静に見るための目分量として扱え。今回の特訓もずばり、お主の精神力を鍛える」
そう言うや、背を向けて。
「それでは帰るぞ! 今日はちとばかり、遊んでからな!」
「え? 特訓は?」
「言ったであろう。お主がその姿を維持させることが特訓じゃ。言っておくが、就寝するまでは、解くんじゃないぞ?」
「本当にこんなんで意味あるのか?」
口ずさみながらも、ホッと撫で下ろす俺。
野蛮な特訓よりかは、何百倍も許容できる。一日ぐらい、ハルハルでいられるのにどうってことはないだろう。
俺はキンマたち三人の後ろを、トコトコ付いて行くハルハルを眺めながら、帰宅を共にする。
幼女一人と、年の近い女子二人。
つい一ヶ月前までは仮想することさえしなかったよ。俺が女子たちと行動することなんて。
「おいおいおい、なんだテメエら! ここはオイラたちの縄張りだぜえ⁉︎」
「人間の、それも女子供が勝手に足を踏み入れるなど、許可した覚えはナッシング!」
「ブクブクブク……‼︎」
ついでに市内のゲームセンターで、こんな不良連中に絡まれることもね……。
現在俺たちは、三体の柄の悪い種族に入り口で通せんぼをされていた。
「マミヤさん、あれって?」
「『ゴブリン』に『リザードマン』。それに『魚人』ですね」
順に指を指して、説明される。
一人は肌が樹木のような茶色のゴブリン族。身長も小学生ほどの小柄で、最初に因縁をつけてきた。
二人目はリザードマン。文字通り、トカゲを二足歩行の人間サイズに成長させた種族だ。
そして最後の種族――魚人なのだが……。
「ブクブクブク!」
「どうして頭に、ヘルメットを?」
「彼らは地上を出歩く時、ああやってヘルメットに水を満たしてエラ呼吸しているのです」
そう、魚人だけやたらと格好が重々しい。
宇宙服に酷似したスーツを着込み、背中のボンベからノズルを通して、頭のヘルメットに空気か水を送っている。
何言ってるか、さっぱり聞き取れねえ……。
「ここは公共の施設じゃぞ? 自分勝手な振る舞いが許されると思うてか、貴様ら?」
とまあ、彼らの勝手な横暴には、当然キンマが対立した。
「はん! ここを取り仕切るは、俺たちのボスさ‼︎ ここの店主とて公認済み! ここでは外の世界の生易しいルールなんて通用しねえぜ‼︎ 有るのは弱肉強食――力を示すことのみ!」
「と、言いますと?」
シシリーの白け顔に、三人は視線を合わせて。
『ここを通りたければ、俺たちを倒すことだぜえ(ブクブクブク)‼︎』
30秒後。
「それでは中に入りましょうか、キンマ様」
「うむ」
両手をパンパン払い、マミヤさんは早々に道を切り開いた。
物の見事に、相手をノックダウンさせて。
「ちょ、ちょっと待てい……!」
「だ、誰が暴力で解決していいと、言ったよ……? ここはゲーセンだぞ……」
「ブク、ブク……」
「なんじゃお主ら、懲りん輩じゃな。何がお望みじゃ」
倒れ伏していた三人は立ち上がり、それぞれ懐から何かを取り出した。
「勝負は……俺たちが出す玩具で勝負を付ける!」
「いや、ゲームで勝負しろよ⁉︎ お前ら、ゲームセンター取り仕切ってる意味あんのか⁉︎」
こいつらの思考回路がイマイチ分からん!
しかしそんな俺のツッコミなど軽くスルーし、相手はそれぞれ道具を引っ張り出す。
「さあ来な! オイラから出す課題は、この『ドンケツゲーム』だ! 誰がやる⁉︎」
ゴブリンは、土俵の上で人形が背中合わせで並び立つ玩具を取り出した。
人形の前面にはボタンが配置されており、それらを押すと人形がお尻を突き出す。最終的に、相手を土俵から押し出すというルールの玩具だ。
…………なんでこいつら、こんな古臭い物を持ち出してんだ?
「良いでしょう。それならば私がお相手します」
「先ほどの姉ちゃんか。っへ……腕が立つからといって、この土俵で通用すると思うなよ? オイラの力を見せてやる‼︎」
試合のゴングが鳴った。
ゴブリンが開始直後に、ボタンに乗せる指を高速連打。
「一瞬で勝負を付けてやらあ‼︎」
「遅いです」
――も、束の間。
マミヤさんはボタンを一撃で破砕させ、ゴブリン側の反応速度を置き去りにした。
結果、マミヤさん側の人形がいの一番に動作を起こし、相手の人形を押し出した。
ゴブリンの人形は倒れるどころか、土俵から遥か後方の彼方へと吹き飛ばされる。
「瞬・殺!」
「だ~っはっは! 結果変わってないでやんの〜⁉︎」
シシリーは腹を抱えて笑う。
俺も一言を呟いといてあれだが、なんとも物悲しい。
ゴブリンのショックで真っ白に燃え尽きた様子を前に、俺は目を伏せた。
「ちくしょう! だったらこっちはポーカーだ! 誰が相手する⁉︎」
「良かろう、格の違いを見せてやろう」
リザードマンの前にキンマが腰を下ろす。
互いにトランプを切り、手札を行き渡らせて。
「勝負は一回だ! どうやら俺は、運の神に巡り合ったようだぜ‼︎ フルハウス‼︎」
相手の札は七が三枚に、四が二枚。
かなり強い手だ。相手も自信満々の笑みで――。
「ロイヤルストレートフラッシュ」
「はうえぇっ〜⁉︎」
キンマの圧倒的な手腕に、リザードマンは尻尾をピンとおっ立たせてリアクション。
文句無しの最強の手札だ。
まあ、運の神に頼ってるようじゃあ、本当の神様には勝てんよな……。
「さて……残り一人だけど」
「ほ~い! 私の勝ち~」
「ブクブクブク⁉」
気が付けば、いつの間にか勝負は始まり終わっていた。
古き良きウォーターゲーム(携帯ゲーム機の造形をした、水中輪投げ玩具)の速入れ勝負で、シシリーが何かしら天族の力を使ったのだろう。
魚人は泡を噛んで、悲しみで地面に身を伏せる。
「よし、今日は存分に遊ぶぞ! 春吉よ付いてまいれ‼」
「いつになくテンション高いなー」
きっとここでしか出会えない筐体に、胸を弾ませているのだろう。
その時だけは普通の少女と変わりない態度で、俺たちを呼ぶ。
「ちょ! このぬいぐるみ可愛い~‼ ええっと、お金お金」
そしてテンションが高いのはキンマだけではない。
数あるぬいぐるみが詰め込まれたクレーンゲームの筐体に噛り付くように、シシリーは硬貨を積んで万全を喫する。
アイツ……キンマの護衛であること忘れてないか?
一匹のぬいぐるみに向かい合う天族に、もはや神の声も通じなかった。
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