第12話 特訓2
特訓、二日目。
「
「はい、お嬢様! 喜んで!」
押し付けがましい
「え? 何故にそんな純情に……。ちょっと貴方、何をそわそわしていらっしゃるの?」
周囲にマミヤさんが居ない今だ。
俺は困惑した西条さんの背を押した。
「いいから速くここを出よう、西条さん! 玄関までで良いんだよね⁉」
「貴方、一体何が……」
「春吉さ~ん、特訓の時間ですよ~」
「うわあああああああああああああああ‼」
しかし努力空しく、俺はシシリーとエンカウント。
彼女は窓から、俺の肩に手を伸ばす。
「ちょ、ちょっと! この女誰ですの⁉ それに何故、窓から! ここ二階ですのよ⁉」
「細かいことは気にせずに~。それじゃあ行きましょうか、春吉さ~ん」
「やめろーーっ‼ 放せ! 助けて西条さ、うわあああ‼」
「ちょっと貴方たち⁉」
俺はそのまま、二階の窓から運動場へと連れ去られ。
口を開けたまま、西条さんは事態の混迷さに、取り残される形となった。
「それじゃあ、春吉。今回は、トウドウを介してハルハルの操縦技術を向上してもらう!」
「今回は魔物は使いませんので、ご心配なく」
「え? そうなの?」
周りもそれらしき檻は無い。
――となると、昨日より幾分かはマシな特訓が……。
「ただし、使う道具は暗器としても名高い、この手裏剣じゃ!」
「暗殺用具を、学校に持ち出すんじゃありません‼」
『え?』
途端に、俺以外の白けた表情。
マミヤさんは大剣を。
トウドウ先生は自前の棍棒を研いでいた最中だ。
うん! こればっかりは俺のモラルが間違っていたね! 速く慣れるようにしていかなきゃね‼
「話を要約すると、お主はハルハルの状態でこの攻撃をさばけ。中にはブラフの攻撃を交える。本命である攻撃には、おのずと“敵意の瘴気”が纏うように設計された武器じゃ。それを見極め、打ち落とせ」
「“敵意の瘴気”?」
口よりは速いと、キンマはコントローラーを取り出すよう指示。
俺がいつも通りにハルハルへ変身するや、キンマは武器を投げてきた。
ブーメランは、幼女の弱い力に風で流れるだけ。
「今のは適当に投げただけじゃが……」
そして次の攻撃は大振りに振りかぶる動作で、放つ。
瞬間――。
「武器が赤いオーラを纏って、ふぐう!」
俺の視界に確かに映った。
武器の周りに、赤い光明が纏わりついているのを。
そして手裏剣は、見事にハルハルの額に突き刺さった。
「こんな形じゃ」
「こ、これって……どんな敵の攻撃も色を帯びるのか? その割には、この前のマジムン討伐の時には、全然感じなかったんだけど?」
「敵意全てに反応できるのなら、苦労はせん。小道具の材質にわらわが細工して、特訓に生かしやすいようにしただけのこと」
「そ、それじゃあ、“瘴気”ってのが見えるのは、あんまり意味無いんじゃ……」
「予備知識として覚えておけ。半霊体であるお主だからこそ、できる妙技でもある。マジムンの中にも、瘴気を操る輩は居るかもじゃしな。ただし、今回の特訓はあくまで多勢の攻撃を裁き切れるかじゃ。ハルハルを使いこなせ! それでは始めるぞ!」
「ふが」
「え、ちょっと⁉」
大量の小道具を前に、トウドウ先生が投球の構えを取る。
こんなに急だなんて! 全く待たせるつもりないな⁉
ええい、打ち落とすなら、こっちも武装を!
「ふがふがふがふがふがふがふがふがふがふが‼」
「滅茶苦茶大量に投げてきやがった⁉ ちょ、尋常じゃない! こんな量、裁け……‼」
襲い来る大量の手裏剣。
絶え間なく、機械的に投射し――尚且つ、一つ一つの軌道は俺の思考の隙間を突いてくる。
打ち落とそうなら、は大回りな軌道で逸れ……。
本命の瘴気を纏った攻撃は、的確に嫌な死角へと到達していく。
つまりは――。
「おごっ! げほっ⁉」
「昨日とまるで変わらないじゃないですか」
「これ、春吉! ハルハルの痛みは遮断されておるじゃろ! 魂のお前まで、いちいち怯むでない!」
「そんなこと言ったって‼」
ザクザクザク‼
白い毛並みが、徐々に鉄の刃で埋め尽くされていく。
まずいと分かっていても、小さな的をいなすのは簡単ではなく。
俺とハルハルは今日、元来ならば逃走用である使い捨て戎具の、隠されざる威力をこの身を以って体験した。
数時間後……。
「あの、キンマ……これ大丈夫だよね? ハルハル、凄いめった刺しにされてるんだけど……」
「痛みはフィードバックはせん。それにその程度くたばるほど、お主の魂から生み出された身体は柔ではないわ」
そうは言われても……。
顔面や背中、タテガミに至るところまで、引っ付き虫のように手裏剣が突き刺さっている。
可愛いマスコット顔が、見るも無残だ……。
「それにしても凄いですね。春吉様の魂が有る限り、こっちの母体は疲れることも、倒れることも無い。不死身なのですか?」
マミヤさんのふとした疑問。
確かに言われて、俺も気になる話ではあった。これだけ動いていても、ハルハルは呼吸一つ乱していないのだから。
しかし俺たちの願望に、キンマは首を振る。
「何事にもデメリットは有る。ハルハルとて無敵ではない。これ以上の攻撃を喰らえば、魂の維持を果たせなくなるし、春吉にダメージは無くとも、元をただせばこやつの精神エネルギーの具現化じゃ。それが弱まれば、自然と消滅する」
「精神エネルギー、ですか……」
魂の俺とマミヤさんは、首を傾げた。
結局のところ、その精神エネルギーとやらが、何処までの耐久力が有るのかはフワッとしたところだ。
「ゲームのように体力表示とかは?」
「お主の精神エネルギーなど、日々で変わる物なのだぞ? 心意気次第でもな。一々それを可視化していたら、それこそ戦闘に差し支える」
「つまり、俺が弱気になったりしたら、それだけハルハルも弱っちゃうと?」
キンマは頷く。
確かに。ゲーム然り、現実然り、体力が減っていれば気持ち分焦りも生まれるのは確かだ。
可視化させるより、自分の寸法での測り方が、戦い易いではあるか……。そこんところ戦士でもない俺が判断するのはいささか軽率な気もするが、焦りで追い込まれたら元も子もない。
「ですが、やはり限界を知っておくのは必用じゃないでしょうか?」
マミヤさんの疑問に、シシリーも納得する。
「マミヤっちと私がサポートするにしても、見極められる分量が無きゃ、私たちもピンチ悟れませんよ? …………いや、私としては無茶してくたばってくれた方が得か」
「おいこら⁉」
心の中へ仕舞えよ、その小言!
「ふ~む……まあ確かにな。それならば試してみるか?」
「え?」
キンマが目配せするや、マミヤさんは意図を察したかのように――。
大剣を掲げた。
「ちょちょちょ、ちょっと待てお前たち‼」
「安心しろ、痛みは無いと言っておろう? いわゆる耐久実験というやつじゃ」
「なぜ、仲間の耐久力を図るために真っ二つにしようとする思考に至る⁉」
「これも春吉さんのためですよ~」
「黙ってろシシリー! 顔がにやけてるぞ⁉」
「これも春吉様のためです。お覚悟を」
おかしくない⁉
それ仲間にかける台詞じゃないよね⁉
「ならば今日特訓した成果と引き換えじゃ。これからお主に向けて、マミヤが攻撃を加える。お主はしかと見極めて、攻撃を受け止めてみせろ。それができればお主の器量を十分と認めて、この実験は必要ないと取りやめる」
「勝負は一瞬じゃぞ?」と、キンマは微笑。
もう逃げられない。
こうなれば覚悟を決めろ春吉!
魂の俺はコントローラーを持つ手に、よりいっそ気力を振り絞り、マミヤさんと向き合う。
「それでは行きますよ、春吉様」
ハルハルも、喉を鳴らした――。
周囲の時が静止したようだった。
誰もが黙って、事の顛末を見守る。
荒野のウエスタン同士の決闘とは、こういう空気だったのだろうか……。周囲の緊張の糸を引きちぎり、マミヤさんは表情を変貌させ――引き金を切った。
振り下ろされる、ハルハルの背丈を上回る大剣の刃。
ギロチンの断頭ように、一直線に迫り、俺は眼を見開いた。
「ここだああああああああああああ~~~~っっ‼」
受け止めようとするハルハルの両腕。
結果は――。
ゴバアッ‼
地面に粉塵が舞った。
まるで金属同士の衝突音を響かせて……そして誰もが悟る。
『あっ……⁉』
大剣の刃は、ハルハルのおでこを直撃していた……。
僅かに彼の立つ地面は、小さなクレーターを穿ち、そして。
ピキピキピキッ⁉ と、ハルハルの脳天から亀裂が生まれた。
それが顔を通り、股の間まで到たちするやドバッ⁉ っと白い飛沫が飛び散り、真っ二つに分かれた。
スイカ割りを見ている気分だ。それはもう、綺麗に両断されてしまっていた!
「あ……あ……っ」
鏡を見なくても、その時の俺がどんな引きつった表情をしていたかなんて、手に取るように分かった。
その瞬間、ハルハルの身体が、閃光となって弾けた。
有線ケーブル先の魂が、俺の元へと戻っていき、そして本来の生身が生気色を取り戻して実態を帯びていく。
同時に突如として、俺に強烈な脱力感が襲い来る。
「な、何事ですか春吉様⁉」
「なるほど。ハルハルの精神エネルギーが限度を迎えると、本人にもこういった影響が出てしまうのか。命に別状はなさそうじゃが、厄介なデメリットじゃ。速めに気づけて何よりじゃの、春吉?」
「お、前……他人事だと、思って…………」
がく……っ。
俺の意識は、そこで暗雲に裏返る。
※この特訓で、ハルハルは瘴気の察知能力が鋭くなった。
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