第14話

ドラコンが去った後はただただ慌ただしかった。

無機物達を元の状態に戻し、念のためアーグス先生を病院へ送り遅れてやってきた騎士団達にドラコンを退却させた事情を説明。

校舎を修理し安全性を確認する為に学校は休校。

ようやく授業を再開できる状態に復帰したのはドラコン襲来より二週間後の事だった。










「…………で、お前はどうしてまたここにいる」


後ろからため息混じりに声をかけてくるのはヴィンセント。

私はと言えば壁にぴったりと耳をつけ隣の保健室の様子を伺っている。

なぜそんな事をしているのかと言えばもちろん保健室ではロゼッタとアーグス先生が二人きりだからだ。

ヴィンセントの方はまた女子生徒達から逃げてここに隠れているのだろう。



あれから二週間の間にいろいろな人間関係が変化していった。

まずドラコンに襲われた時、ゼスのピンチをメリアーナが救ったらしくその功績を評価され彼女はゼスの正式な婚約者になった。ゼス本人もメリアーナの勇敢さに心打たれたらしく今までの態度を改めたようだ。

婚約者候補であったニコルやミシェリーは新たに婚約者を探すことになったそうで、これからが気合の入れ時だと意気込んでいた。

ロゼッタにおいてもあの出来事の後からアーグス先生と良い感じに距離が縮まっているようだ。

だがまだまだ安心はできない。

私はロゼッタがアーグス先生と無事結婚するまでこうして陰から見守るつもりだ。

なぜか最近その場にヴィンセントが居合わせることが多いが……。


「私ここの壁が一番好きなので。壁マニアですから」


先程の問いに答えれば呆れられた。


「まだそれを言うのか。保健室の二人が気になるのならそう素直に言えば良いだろうに。だいたい盗み聞きは良くないぞ?」

「盗み聞きじゃありません!見守ってるんです!ロゼッタは私の推しですから!一緒にしないでください!」


抗議すればヴィンセントは肩を竦める。


「お前の目にはオルコット嬢しか映ってないのか?」

「そうと言っても過言ではありません!」

「まさか……お前、女が好きなのか?」

「馬鹿言わないでください、ロゼッタはあくまで推し!憧れであり尊敬すべき相手です!私の恋愛対象はちゃんと男性ですから!」

「そうか……それは何より」


呆れたような安心したような声が聞こえたかと思うとヴィンセントがとん、と壁に手をつく。

私は壁との間に挟まれてる状態になる。

何事かと顔を上げれば整った顔が間近にあった。


「なら俺もお前の恋愛対象になれるということだな」


ふわりと微笑みを浮かべながら囁かれた声に首から上が一気に熱くなる。

何か反論しなければと思うのに言葉が出て来ない。


「これから覚悟しておけ、フィーネ・ランドル嬢」


硬直した私を見て満足げに頬を緩めヴィンセントはドアから出ていった。

パタンとドアが閉まった瞬間、心臓がバクバクと音を立ててることに気付く。


「……私の推しはロゼッタ!ロゼッタですからっ!」


自分に言い聞かせるように声を出してみるも顔の熱と、目に焼き付いてしまったヴィンセントの微笑みは中々消えてはくれなかった。


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