第13話

(ドラゴンは乙女ゲームのラストでしか登場しないラスボスのはずなのになんでこんなところに!)


このドラゴンは乙女ゲームのラストで攻略対象者とヒロインが立ち向かうラスボ的な存在だ。このゲーム序盤のこの時期に出てくる事などあり得ない。


(私がロゼッタの恋路を応援しようとしたからシナリオが狂ったのでしょうか……!?)


ドラゴンから離れた場所に校舎から避難した生徒達が逃げていくのが見える。


「俺達も逃げるぞ!あんなの王国直属の騎士団でもないと敵わない!」


ヴィンセントに腕を引かれサロンにいた執事さん達と共に走って校舎を出る。

校舎から離れた場所にはゼスやメリアーナ達だけでなくほとんどの生徒が教師に守られなから避難していた。

急いで避難してきた生徒を確認するがその中にロゼッタとアーグス先生の姿がない。

最悪な想像が頭を過った途端、家にいるはずのポポから脳内に映像が送られてきた。

私に自分の見ている景色を送っているのか頭の中にどこかの景色が見える。

ドラゴンに壊されたと思われる校舎の片隅、その瓦礫を懸命に持ち上げようとしているロゼッタの姿。

瓦礫の隙間からは人の腕がはみ出している。


(まさかアーグス先生が下敷きに……!?)


気が付けば私は崩れた校舎の方に向かって走り出していた。

ヴィンセントの引き留める声が聞こえた気がするが足を止めるつもりはない。

暴れるドラゴンを視界の片隅に入れながらロゼッタの元に駆け寄る。


「ロゼッタ!大丈夫ですか!?」


息を切らしながら声をかけるとボロボロと涙を流したロゼッタが振り返った。


「貴方は以前迷子になっていた子……!今は誰でもいい、お願い助けて!アーグス先生がこの下にいるの!」


ずっと先生を助けようと必死だったのだろう。

ロゼッタの制服は土埃まみれで綺麗な手には血が滲んでいる。


「どいて下さい、すぐに助けます」


私は瓦礫に手をかざし強く念じた。

すると瓦礫はそれぞれ自我を持ち次々動き出す。

全ての瓦礫が動いた事でその下に埋もれていたアーグス先生の救出に成功した。


「先生!」

「……う……オルコット、さん……?」


アーグス先生は頭から血を流している。

出血の量を見るにこのままだと命が危ない。


「ロゼッタ、治癒魔法は使えますね?」

「え、えぇ。すぐに治します」

「待ってくれ……」


治癒魔法を使おうとするロゼッタを止めたのはアーグス先生だった。


「このまま……死なせてくれ」


掠れ声で告げられた言葉にロゼッタが息を飲む。


「……恋人が……死後の世界で……待ってるんだ……このまま彼女の元に……」


弱々しい声に胸の辺りがぎゅっと締め付けられたように軋む。

この感覚を私は知ってる。

会いたい人に会えなくて言葉も届かなくて、ただひたすらに同じ場所に行きたいと願う感覚を。


「馬鹿言わないで!」


声を張り上げたのはロゼッタだった。


「本当に先生の事を大事に思う人が、先生が死ぬ事を望みますか!?恋人なら余計に……っ、生きて幸せになって欲しいって願うはずです!生きることを、幸せになることを諦めないで下さい!お願いだから生きて!」


ボロボロと泣きながら叫ぶロゼッタにアーグス先生は目を見開いた。

その言葉は先生に届いたのだろう。

再び治癒魔法を発動させたロゼッタを先生は止めようとしなかった。


「おい、大丈夫か!?」


先生の怪我を治癒させているとヴィンセントが駆け寄ってきた。


「コールス様、ロゼッタとアーグス先生の事をお願いします。安全な場所に避難を」


彼らに背を向けそう告げた私にヴィンセントが眉を寄せる。


「それはお前もだランドル嬢。すぐに騎士団が駆け付けドラコンを退治してくれる」

「それじゃ遅いんですよ」

「何を言って……」

「私の推しを泣かせた落とし前、つけさせていただきます」


私はいまだに暴れ続けているドラゴンを視界に捉えると学校の校舎に向かって両手をかざし念じた。

すると校舎にあったあらゆる無機物が自我を持ちドラゴンに飛びかかって行く。

誰かのペン、図書室での本、サロンにあったティーカップやポット、掃除用具入れのモップに先ほどドラゴンに壊された校舎の瓦礫達。

小さいが数は多い無機物達に一斉攻撃され最初は尻尾や翼で凪ぎ払っていたドラコンだったが、一向に減らないその数に煩わしくなったのか一気に飛び上がると遠くに見える山岳地帯の方へと飛び去っていった。

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