第12話
ヴィンセントは私に駆け寄ると制服の上着を脱いで躊躇いもなく私に羽織らせた。
「結構です、コールス様の上着が汚れてしまいますから!」
後から男爵家に汚れた上着の代金を請求されようものなら男爵夫妻に迷惑をかけてしまう。
慌てて上着を押し返そうとすれば睨まれた。
「上着一着ぐらい替えはある!いいから羽織っていろ」
怒られた。
「……わかりました」
制服が濡れて寒いのは事実なのだ。
ありがたく借りる事にしよう。
先程までヴィンセントが着ていたせいかほんのり温い。
(これが私と彼じゃなく、ロゼッタとアーグス先生のやり取りなら最高なのに)
彼シャツならぬ彼上着を着たロゼッタは絶対に可愛い。
萌え袖になること間違いなし。
(アーグス先生は保健医ですからそこは上着じゃなくて白衣でしょうか?白衣ロゼッタ……尊い)
「……――おい、聞いてるのか?」
妄想にトリップしかけた意識がヴィンセントの声で戻ってくる。
「何か言いました?」
全く聞いていなかった。
首をかしげて見せるとヴィンセントはため息をつき私の手を引いた。
「着替えを用意させる。そのままでいさせるわけにいかないからな」
さすがは騎士団長の息子兼乙女ゲームの攻略キャラクター。
困った人を見捨てたりはしないらしい。
私は大人しく着いていくことにした。
少し歩いてつれてこられたのは上級貴族だけが使えるサロン。
先程メリアーナ達を見送った廊下を歩き案内されるままその一室に足を踏み入れると、授業中と言うこともあり生徒は誰一人居なかった。いるのは初老の執事さん一人と三十代くらいのメイドさんが三人。
ヴィンセントが入ってきたのをみると彼らは頭を下げ出迎えた。
「これはこれはヴィンセント様」
「彼女に着替えを。濡れた髪も乾かしてやってくれ」
「畏まりました」
ヴィンセントがそう告げると私はメイドさん達に囲まれ、サロンの奥のさカーテンで仕切られたスペースに案内された。そこで着替えさせてもらう。
濡れた髪もしっかり乾かしてもらった私がヴィンセントの元に戻ると、彼は優雅に紅茶を飲んでいた。
無駄に絵になる。
私が執事さんに促されヴィンセントの正面に座るとメイドさんが紅茶を出してくれた。
「コールス様、ありがとうございました。お陰で風邪を引かずに済みそうです」
頭を下げるとヴィンセントは満足げに頷いた。
「どういたしまして。で、お前は何だってあんなに濡れていたんだ」
「ちょっとした事故で濡れただけです」
「どういう事故なんだ、詳しく説明しろ」
どうにも言い逃れはさせてくれないらしい。
だが正直に話したところで変に首を突っ込まれても迷惑だ。
何より私は何とかして欲しい等とこれっぽっちも思っていない。
「着替えを提供して下さったのは感謝してます。けれどこれは私の問題です、コールス様には関係のない事ですから」
「校内で問題が起きているのならば対処しないわけにはいかない。問題を解決に導くのも貴族の役目だ」
「問題ですらありません。だから大丈夫です。私に――」
構わないでくださいと言いかけたその時、地から響くような鳴き声が響き校舎が大きく揺れた。
「何事だ!?」
ヴィンセントが状況を把握しようとサロンを飛び出し私も後に続く。
廊下の窓から見えたのはぎょろりとした金色の大きな目。赤黒い鱗。鋭く光る爪。
学校の校舎と同じくらい大きなドラゴンがそこにいた。
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