第11話
メリアーナはゼスと一言、言葉を交わしただけで動悸と息切れが止まらないというので上級貴族だけが使えるというサロンで休んでもらう事にした。
こういうものは焦ってもうまくいかない。少し時間をかけてでも確実な方法を取るべきだ。
彼らの事はひとまず置いておくとして、ロゼッタの様子を見に行こう。
次の行動を決めた私はメリアーナ達を見送りロゼッタを探しに行こうと廊下を歩き始めた。
しかしその行く手は見知らぬ女子生徒達によって阻まれる。
「卑しい平民風情が!」
彼女達の手には水の入ったグラス。
それで何をするか悟った瞬間、私の顔面と制服にばしゃりと水がかれられた。
「ふふふ、なんてみすぼらしいのかしら」
「濡れたネズミのように貧相ですこと」
「ゼス様に声をかけられたくらいで自惚れない事ね」
「目障りなのよ偽貴族が」
髪や制服から水を滴らせる私を見て満足そうにケラケラと笑いながら女子生徒達はその場から立ち去った。
(グラスを投げられなかっただけマシです)
顔をあげると通りすがりの生徒達と目が合ったが全員顔を反らして足早に逃げ去っていく。
私は近くの水道で髪と制服を絞るとポケットからハンカチを取り出した。
こちらもびしょ濡れだが絞れば使える。何も無いよりマシだろう。
ある程度水分を払ってから今度は掃除用具入れからモップを取り出し、床にぶちまけられた水を拭き取った。
放って置けばいずれ乾くだろうが他の生徒が滑って転んでしまうのはよくない。
床が綺麗になったのは昼休が終わり、授業開始のチャイムが鳴った後だった。
(午後の授業サボっちゃいましたね……まぁこの格好じゃ授業どころじゃありませんし仕方ないです。皆勤賞は諦めましょう)
私に絡んできた女子生徒達には悪いがこの程度でショックを受けるほど今の私はか弱くはない。
だが濡れたままというのは困る。
服が肌に張り付いてなんとも気持ちが悪い。
(どこかで着替えを調達できればいいんですが……)
服がなくてもせめてタオルが欲しい。
ポポに頼めればいいのだが小さなぬいぐるみの体では無理だろう。
それ以前に今日は学校につれてきていない。
困っているとふと後ろから足音が聞こえてきた。
この際誰でもいい。
断られる可能性もあるが服かタオルを借りられないか交渉してみよう。
私の姿を見つけたのか近付いてきた足音はぴたりと止まる。困惑しているのかもしれない。
振り返った私は目の前の人物を見て驚いた。
まさかこのタイミングで遭遇することになろうとは。
「……お前、それはどうした」
驚いたように問いかけてくるのはヴィンセント。
(今後一切関わらないと言ったのにフラグ回収早すぎやしませんかね)
出来れば彼には関わらない方向で行きたかったのだがそうはいかないらしい。
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