第10話


「両思いへの一歩はまず相手に自分を意識してもらうことから始まります。という訳でメリアーナさん、あそこにいる王子様に一人で突撃しましょう!」

「なんでそうなりますの!?」


私達は場所を変え中庭にやって来ていた。

視線の先ではベンチに腰掛けたゼスが本を読んでいる。

私、メリアーナ、ニコラ、ミシェリーは四人で木の影に隠れながらゼスを盗み見ている状態だ。


「メリアーナ、ファイト」

「頑張ってゼス様のハートを射止めて下さいねぇ」


ニコラとミシェリーも異論なはないらしい。


「あ、貴方達は本当によろしいの?わたくしのしようとしてる事は……ぬ、ぬけがけ……なんですのよ?」

「構わない」

「さっきも言いましたけどぉ、私達は婚約者になりたいなんて思ってないんですよぉ?寧ろメリアーナさんがお似合いだと思ってますしぃ」

「貴方達……そんな風に思ってくださってたなんて……わたくし、お二人の気持ちに答えて見せますわ」


二人の言葉にメリアーナは感動したのか胸の前で手を組み目を潤ませる。


「……フィーネ、ゼス様に突撃してわたくしはどうすればよろしいのでしょうか?」


二人の言葉で気持ちを切り替えたらしいメリアーナはこちらを真剣に見つめてきた。


「まず話しかけましょう。話題はなんでもいいです、婚約者候補ならお話するくらい楽勝ですよね?話しかけることで自分を相手に認識してもらうのです」

「ら……楽勝……頑張りますわ」


メリアーナは頬をぴくりと引きつらせゼスの方に歩き出す。

右手と右足が同時に出てるがまさか。


「なんであんなにぎこちないんですか?もしかして緊張してます?」


「メリアーナさんはゼス様が好きすぎる可愛い方なんですぅ。婚約者候補者達とゼス様とのお茶会でも、いつも緊張してるくらいなのですよぅ」

「そうなんですね……」


まさかメリアーナがそんな性格をしていたとは思わなかった。ゲームだけでは知り得なかった事だ。


「ところでぇ、フィーネさんに聞きたい事があるのですけれど」

「何でしょうか?」


メリアーナから視線を外しミシェリーを見れば彼女に先程のおどおどした雰囲気はなく微笑みを浮かべていた。


「どうしてメリアーナさんに協力なんて申し出たのですかぁ?……もし彼女を利用して何かわるーい事を考えてるならその時は、私とニコラが許さないですよぅ」


圧すら感じる笑みに背筋がぞくりと震える。


(……いくら私がヒロインと言えど身分的には男爵令嬢……公爵家の力をもってすれば簡単には潰されてしまいます……これは下手な嘘をつけませんね)


ゲームのミシェリーは始終おどおどしていたがそれは彼女の仮の姿だったのだろう。

表面に騙されて侮ってはいけない相手の様だ。


「私には目的があります。その為に王子様とメリアーナさんには正式に婚約してもらいたいんです」

「目的……ライール公爵家に恩を売って取り入るつもりですかぁ?」

「違います。そんな事どうでもいいんです。私はある人に幸せになって欲しい……その為には王子様に早く婚約者を決めていただく必要があるんです。だからメリアーナさんに協力を申し出ました」

「なるほどですぅ。まぁ、メリアーナさんの害にならないのならそれでいいですよぉ、もし何かわるーい事を企んだ時は私とニコラが処分するだけですから」

「……気を付けます」

「はい、そうしてください」

「二人とも、メリアーナが戻ってきた」


ニコラの声に顔をあげれば真っ赤な顔をしたメリアーナが足早にこちらへ戻って来たところだった。


「ゼス様と、お話出来ましたわ!」


戻ってくるなり興奮気味に伝えてくるがその割には戻ってくるのが早すぎる気がする。


「どんなお話をされたんですか?」


まさか挨拶だけして戻ってきたのではと思いながら尋ねてみるとメリアーナは満面の笑顔で言った。


「いいお天気ですねと話しかけましたの、そしたらそうだなとお返事をいただけたのですわ!」

「…………それで?」

「それだけですわ!わたくし個人にお返事をくださるなんて夢のようで……心臓が口から飛び出てしまうかと思いましてよ!やはりゼス様は素敵すぎますわ!」


両頬に手を当てきゃっきゃっと喜ぶメリアーナ。


「……ミシェリーさん、メリアーナさんって」

「今時ありえないほど純情なんですよぉ」


私の言わんとしていることを察してくれたらしい。


「……メリアーナはそこが可愛い」


ポツリと呟いたニコルに私は前途多難過ぎると頭を抱えるしかできなかった。

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