第7話
私が貴族の学校に通い始めて一週間が過ぎた。
義理の両親である男爵夫妻は私にとても良くしてくれるし、学校の勉強にもついていける。
唯一問題があるとすれば学校内に友達がいないと言うことだ。
友達を作る努力はしてみた。話しやすそうなクラスメイトに声をかけてみたり隣の席の子に挨拶してみたり。
けれど私が元平民だからかなかなか会話が続かない。話せても軽い挨拶程度で皆そそくさと離れていってしまう。
(正直なところ少し寂しくはありますがロゼッタを見守る時間が確保しやすいと思えばありがたいものです)
早々に頭を『友達作り』から『ロゼッタを見守る』に切り替えて分かった事がある。
彼女は理不尽に虐める事は決してしないという事だ。
ゲームでは攻略対象者とヒロインが会う度に突っ掛かってきたり、嫌味を言ってきたり敵対してくる彼女だけれどそれにはちゃんと理由があった。
無作法なヒロインに彼女なりのやり方でしっかりと貴族の礼儀作法を教えてくれようとしていたのだ。
それをヒロインは虐めだと口外しやがてロゼッタは悪役令嬢として罰せられる。
(今更ながらヒロインに都合のよすぎる世界ですね、乙女ゲームってやつは……)
物語を成立させる為に悪役は必要なのだろう。
だからと言って不幸にしていい訳じゃない。
私は特別な力を持った子がちやほやされる物語より努力した人間が幸せになる物語の方が好きだ。努力した人は報われるべきだと思うから。
私が知ってるゲームでは努力している人間ほど悪役にされることが多い。
(特別な力を持ったってだけでちやほやされるヒロインなんぞいらんのです……)
不意に目蓋の奥に甦る忘れたはずの苦い前世の記憶が蘇るが、無理矢理押し込め深く息を吐く。
(私のすべき事はロゼッタをハッピーエンドに導く事!)
そろそろ攻略対象者の好感度をあげる為のイベントが起きる時期だ。
それまでにロゼッタの想い人を特定させておきたい。攻略対象者なら私の知る限りの情報を駆使して両思いに導く。
もし攻略対象者で無いのなら私のやり方で彼女を応援するだけだ。
今後の事を考えながら廊下を歩いているとぼすんと何かにぶつかった。
顔を上げそれが人だと気がつき慌てて謝罪する。
「すみません、余所見をしていて……うげ」
ぶつかった人物の顔を見て思わず声を上げてしまった。
その人物がゼスだったからだ。
「お前はこの前の迷子女か」
「大変失礼致しました私の前方不注意です今後一切ぶつからないことを誓いますさようなら」
「待てこら」
一息で謝罪して逃げようとしたが腕を捕まれ阻止される。
「少し付き合え」
口端を上げてにやりと笑うと返答など待たずにゼスは私の腕を掴むとどこかにつれていこうとする。
(ここは腕を払って逃げるべきでしょうか……けど、ゼスへの態度を改めるようにロゼッタに言われましたし……)
ゼスに何か言われるのは痛くも痒くもないがロゼッタと敵対するフラグは立てたくない。
(でもこのままゼスについていったらこれはこれで変なフラグが立ちそうです……まさか……!これが乙女ゲームの強制力というやつですか!?世界が私とロゼッタを敵対するように仕向けているとか!?)
「ついたぞ、ここだ」
「え!?」
声をかけられて驚く。いつの間にかゼスの目的地についてしまっていたらしい。
顔を上げてみると学校の中庭だった。
いったいここに何の用があるというのだろう。
(と言うか、なんという事でしょうっ!!私としたことが選択肢を選ぶ前に連れてこられてしまうとは……)
隙をついて逃げようにも腕を捕まれたままでは難しい。
(こうなったら変なフラグが立たないように気を付けつつ、適当にやり過ごすしかないですね)
心の中でため息をひとつ吐き出しゼスに案内されるまま日当たりのいいベンチに腰を掛ける。
ゼスは私の隣に座るとじっとこちらを見て口を開いた。
「お前にしか使えない魔法とやらを俺に見せろ、フィーネ・ランドル」
眉間にシワを寄せ渋い顔をする私を無視してゼスはふっと笑って見せる。
「名前を知っていた事を驚いてるのか?お前を迷子から助けてやった時に気になって調べさせた。お前は最近貴族になったばかりの元平民、しかも貴族にも使えない物に命を吹き込む魔法が仕えると言うではないか。そんな魔法がこの世にあったとは驚きだ、もし使えそうなものなら俺が直々に役立ててやる!さぁ、その魔法を俺に見せてみろ!」
「お断りします」
速攻で断ればゼスは信じられないと言うように目を見開く。
「俺が直々に役立ててやると言っているんだぞ!?」
攻略前のゼスは自分の要望は全て通るものと信じて疑わない。
その態度についイラついてしまう。
ヒロインはゲームの中で攻略していくうちにゼスの性格を強制していくが、生憎私は他人の為にそこまで動けるほどお人好しではない。
(今後絡まれても迷惑ですし嫌われてしまってもいいですね。ロゼッタの言葉を忘れずあくまでも丁寧に)
ひとつ深呼吸をしてまっすぐにゼスを見る。
「私の力を誰に見せるかどう使うかは私が決めます。貴方が誰であろうと人の意思も尊重出来ない方に見せる魔法ははありません」
「なっ……」
「初対面の時に迷っていたのを助けていただいのは感謝していますが個人的に私は貴方が嫌いです。今後も私の魔法をお見せすることはないので諦めてください」
歯に衣着せぬ物言いをしてしまったが精一杯の丁寧な対応のつもりだ。
「お、俺は王子だぞ!?父は国王だ!地位も財産もある!見た目だって悪くないし、剣術だって強い!嫌われる要素なんてないはずだ!」
嫌いと言われた事に動揺しているらしいくゼスは声を荒げる。
予想はしていた。この王子は周りの人間に甘やかされて育てられた。だから誰かが自分を嫌う事など考えたことが無いのだ。
「本当にそう思われますか?だとするならば私はやっぱり貴方が嫌いです」
私は静かにそう告げる。
するとゼスはうつ向いてしまった。
「ご用件がそれだけでしたら失礼します」
私はゼスを放置してその場から立ち去った。
ここまではっきり嫌いだと言ったのだからゼスが絡んでくることはないと思いたい。
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