第8話
ゼスとのやり取りでどっと疲れた私は学校が終わるとすぐに家に帰ってベッドに横になった。
ポポの毛並みに癒されようと部屋を見回したが姿が見えない。散歩にでも行っているのだろうかと思い、目を閉じ意思を同調させる。
ポポの視界と自分の視界を繋いで最初に見たのはお皿に乗ったショートケーキだった。
(……………………ポポ、今どこにいるのですか?)
問い掛けるとポポが首を動かしたのかその場所の全体が見える。
そこは落ち着いた内装の部屋だった。棚や机に可愛らしいぬいぐるみやドレッサーがあることから多分女性の部屋だろう。
(知らない人の部屋にお邪魔して盗み食いなんて駄目ですよ!?)
慌ててポポを止めようとすると不意に部屋のドアが開いて女性が入ってきた。
その人物は見間違いようもない私の推し。
(ロゼッタ!?と言うことはここはロゼッタの部屋!?)
ゲームでも見たことのない推しの部屋に一気にテンションが上がる。
「待たせてすまないね、わんちゃん。どうぞ」
ロゼッタのその言葉と共にケーキの隣にお皿に入ったミルクが差し出される。
ポポは嬉しそうに一鳴きするとペロペロとミルクを舐め始めた。
元はぬいぐるみのポポだが私の魔法で命を与えた瞬間から飲み食いは可能だ。
だがいつの間にロゼッタの部屋に招かれミルクをご馳走になる程仲良くなったのか。
ポポがミルクに夢中になっている視界の隅でロゼッタが何か書き物をしているのが見える。
(ポポ、ロゼッタが何をしているかちょっとだけ覗いて見てください)
私の指示にポポがミルクから顔を上げてとことことロゼッタの元に歩いていく。
「おや、どうしたのかな?構ってほしい?」
「わふっ!」
気が付いたロゼッタがポポの体をひょいっと抱き上げた。
その結果ロゼッタの書いていたものが何か見える。
それは日記だった。
中を覗くつもりはなかったが一瞬見えた文面に私の目は気が付けば釘付けになった。
『アーグス先生に恋人がいた』
その文章が書かれた日付はロゼッタが悲しそうな顔をしていたあの日だ。
悪いと思いながらも文章を目で追う。
『あんなに素敵な先生だから恋人がいたっておかしくない。恋人の話をする先生はとても楽しそうで嬉しそうで、悲しそうにも見えた。なんでそんな顔をしているのか気になる。恋人がいたのはショックだけどもっと先生の事が知りたい』
(なるほど……ロゼッタはアーグス先生が好きなのですね)
日記を読んでしまった罪悪感はあるがこれで私の取る行動が決まった。
アーグス先生のロゼッタへの好感度を上げて両思いを目指してもらう。
私はポポに遅くならないうちに帰ってくるように伝え意識の同調を切る。
(まずロゼッタの『王子の婚約者候補』という肩書きを外さなければ……しかしどうやって?)
貴族の婚約とは家同士の契約だ。
ロゼッタはまだ婚約者候補だが相手は王子様。相応の理由がない限り候補から外れることはない。
(……なら他の婚約者候補を手助けして王子にあてがってしまえばいいのでは?)
ゼスの婚約者が本決まりすればロゼッタの肩書きはなくなり、アーグス先生と両思いになれるように私が全力でサポートできる。
(よし、明日はゼスの婚約者候補達に接触してみましょう!)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます