第6話
強制的に意識がポポと切断され顔を上げると私を心配そうに見つめる顔がひとつ。
資料室に放置してきたはずのヴィンセントだ。彼に声をかけられた事で体が意識を呼び戻したのだう。
隠れていたはずなのになぜ見つかったのか。
「おい、大丈夫か?具合でも悪いのか?」
同調の魔法を使っている間は私の体は意識がないのでぐったりしてるように見えたのだろう。
(完璧に隠れていたはずだったのですが見つかってしまうとは。まさかこの人わざわざ私を探していたんですか?まさか、ねぇ)
「……何しに来たんですか」
不満と警戒を隠さずに言葉を返せばヴィンセントは「そんな言い方は無いだろう」と眉間にシワを寄せる。
「話の途中で急に飛び出して行ったのはお前だ」
「取引は成立しました。他に貴方と話す事などありません」
「名乗りもせずに立ち去っただろ」
「わざわざ名前を聞く為だけに追いかけてきたのですか?それはご丁寧にどうも。私はフィーネ・ランドルと申します。これでよろしいですね、よろしかったら邪魔しないで下さい」
「邪魔って……心配して声を掛けてやったんだぞ?」
「頼んでません。それとも貴方に声をかけられた女性は可愛らしく返事をしないといけないという義務でもあるんですか」
「そんなものあるわけ無いだろう。それが心配して声をかけた人間に対する態度なのかといっている」
「……それは……」
ヴィンセントの言葉はもっともだ。
いくら求めていないとは言え心配してくれた相手にこの態度は良くない。
(確かにこの態度は良くありません……ロゼッタならば絶対態度に出すようなことはしないでしょう。私としたことが大人げなかったです)
私は姿勢を正すとヴィンセントに頭を下げた。
「良くない態度をとってしまってすみませんでした。それから心配していただいてありがとうございます」
「なんだ、意外に素直じゃないか」
「自分の欠点を認められない人間は成長できませんから」
「……そうか。で、ランドル嬢はここで何を?」
「校舎の壁を愛でていました」
ヴィンセントのじと目が突き刺さる。
「それで通用するとでも?」
「私、壁マニアなんで。それより女性に名乗らせておいて自分が名乗らないのはどうかと思いますよ?」
「……俺を知らない方が珍しい」
「自信過剰ですね」
今度はヴィンセントが言葉を詰まらせる。
「……ヴィンセント・コールス」
「ではコールス様。今後一切関わらないとお誓いしますので私との取引だけは忘れないでくださいね?それでは失礼します!」
「あっ、おい!?」
再び引き留めようとするヴィンセントを無視して私は一目散にその場から逃げ出した。
これ以上攻略対象者に関わるのは得策じゃない。
変なフラグは立てる前にへし折るに限る。
◇◇◇
結局、ヴィンセントに構っていたせいでロゼッタが何に悲しんでいたのか知ることは出来なかった。
ポポが聞き出せたのかも分からない。意識は同調できても記憶までは読み取れないので別の手を考えなくては。
ちなみにポポはロゼッタにたくさん遊んでもらったのか、夜も更けた頃に男爵家にある私の部屋に満足そうな顔で帰ってきた。羨ましい。
(あっという間に一日が終わってしまいました……)
ベッドに腰掛けポポのもふもふした毛並みを撫でながらため息をつく。
気合いを入れすぎて少し疲れてしまった。
(でも……生ロゼッタを間近で拝むことが出来ましたし良しとしましょう)
ゲームで言えばまだ序章の辺り、焦ることはない。大事なのはこれからだ。
(そういえばロゼッタはヴィンセントの事をどう思っているのでしょうか?ロゼッタの行動からアーグス先生と何かあると思っていましたが……まだ確証はありませんし、もしかしたらヴィンセントに気がある可能性も……)
ロゼッタはゼスの婚約者候補ではあるが人を想う心は自由。
ヴィンセントに想いを寄せている可能性だってある。
(やはりまだまだ情報が足りませんね。明日からもっと精進して集めなければ……!)
「ポポ、ロゼッタの幸せの為に一緒に頑張っていきましょうね!」
「わふっ!」
私は小さな相棒とこれから頑張ることを誓うとその夜はポポを抱きしめ眠りについた。
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