第2話

最初のイベントは先程少しだけ姿を見かけた第二王子ゼスとの出会いイベントだ。

ヒロインは男爵家の養子であるもののつい最近まで平民だった。

その為見慣れない大きな校舎に圧倒され道に迷ってしまい、たまたま通りかかったゼスに道を尋ねる。そこにロゼッタが現れて礼儀がなっていないと注意すると言うのが大まかな内容。

ロゼッタは王子の婚約者候補筆頭という設定があったので口出ししない訳にいかないのだろう。

ヒロインはここではじめてゼスと出会うのだがロゼッタはとっくにゼスと知り合いなので出会いを演出する事は出来ない。

ならばこの出会いイベントを利用してロゼッタが攻略対象者達をどう思っているのか調べたい。


(ロゼッタがゼスの事を好きなのか確認しておきたいところです……もしゼスを好きなのであれば私が全力で陰ながらお手伝いせねば!)


もう少ししたらここを通りかかるはずのゼスに声をかけ引き止めてからロゼッタがくるのを待ち、彼女の目の前でゼスにくっついてみるのはどうだろうと考え一瞬で却下する。


(万が一ロゼッタがゼスの事を好きだった場合、私が嫌われてしまう可能性がありますからそれは却下です。推しに嫌われるなんて耐えられません。まずは焦らず可能ならば然り気無く聞いてみることにしましょう)


そう結論付けると迷子のふりをしながらゼスが通りかかるのを待った。

待つこと数分、ゼスが廊下の向こう側から歩いてくるのが見えたので迷わず声をかけた。


「あのっ、すみません!私、迷子になってしまって……教室にはどう行けばいいのでしょうか?」

「は?そんな事もわかぬのか、こんな分かりやすい校内でどうやったら迷うんだ。さてはお前馬鹿なのか?」


(対面の人間を馬鹿呼ばわりとはゲームプレイ時にも思いましたがこの王子の方が礼儀を知らないようです。けれど私は大人。ヒロインの台詞はざっくりですが覚えているのでそれを返せばいいだけです)


「『そんな風に言わなくても良いじゃないですか!私、こんな大きい建物に来たのは初めてなんです。迷ったっておかしくないと思います』」

「ほう、俺に意見するか。お前、中々面白いな」


口の端をニヤリと吊り上げるゼス。

その笑みに鳥肌が立つ。


「ゼス様、何をしておられるのです?」


ぞわぞわする笑みに耐えていると後ろから綺麗なアルトボイスが聞こえてきた。

待ちきれず振り返るとそこには我が麗しの推しロゼッタがいた。


(生の推しを間近で見られる日が来ようとは……ヒロイン転生最高過ぎます!神様ありがとう!!)


先程の鳥肌はどこへやら。

私の心は一瞬で晴れやかになる。


「……なんだお前か。俺がどこで何をしていようと関係なかろう、五月蝿く言われる筋合いはない」

「それがあるのです、私はゼス様の婚約者候補ですから。そこの貴女、ゼス様はこの国の第二王子です。そんなことも知らないなんて……いくら学校内とはいえ口の聞き方に気を付けなさい」


切れ長の瞳をこちらに向けられればもう私の胸は高鳴ってしかたない。


(素敵……素敵すぎます!悪役令嬢より男装の麗人で攻略ルートが作られてもおかしくないくらい麗しいお姿……はぁ、尊すぎて本当に)

「好き」


「「は?」」

思わず溢れた言葉にゼスとロゼッタが同時にこちらを向いた。


「い、いえっ!その……婚約するくらいお二人は好き合っているのかなと」

慌てて誤魔化すように言った言葉に二人は顔をしかめる。


「よく聞け、婚約者ではなく婚約者候補だ。父上の命令でなければ誰がこんな男女……」

「ゼス様のお言葉は大変不本意ですが同感です」


ロゼッタの反応を見るにゼスの事を好きなわけではないようだ。


(なるほど、ゼスルートは今のところ無しと見るべきですかね)


もしかしたらこれから恋に落ちる可能性もあるがその時はその時だ。


「そんな事よりお前、迷子なんだろう?来い、教室まで連れてってやる」

「私もお供します」

「お前は来なくてもいい」

「いくら校内とは言えゼス様が婚約者候補でもない女子生徒と二人でいれば、悪い意味で目立ちますから」

「口煩い女は嫌われるぞ」

「ご自分の立場を考えてくださいと申し上げているだけです」


バチバチと火花を散らし始めた二人を宥めながら、私は出会いイベントをまずひとつ乗り切ることが出来たのだった。

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