悪役令嬢が推しなので陰ながら幸せを願います

枝豆@敦騎

第1話

(ついに、ついにこの時が来ました!)


大きく立派な校舎を見上げながら私の胸は高鳴っていた。


乙女ゲームのヒロインに転生し生きること十数年。今では前世の記憶などほとんど忘れてしまっているが、私が乙女ゲームのヒロインとして目的を果たす為に必要な記憶はしっかり覚えている。


(それを役立てるときがついに来ました……これからが本番です。まずはあの人を探さねば……!)


登校する生徒達の波から外れ待ち合わせを装い昇降口の端に寄ると、生徒の中から目的の人物を探す。

自分が乙女ゲームのヒロインに転生したと分かった時から会いたくて仕方なかった私の推し。

しばらく探していると視界にキラキラと光る金色が映る。それは綺麗なブロンドに青い瞳で整った顔立ちの男子生徒、攻略対象の一人であり第二王子のゼス・ロードだ。

しかし私の目的は彼ではない。

目線を反らせば彼の近くでキラリとまた何かが光った。目を向ければそれはゼスに負けない綺麗な金色の髪だ。その人の顔を見た瞬間胸が高鳴りだす。


(あの綺麗な髪にスラッとした出で立ち……素敵過ぎます)


長い金髪を一本に結って飾り気ひとつない綺麗な顔立ちの男性にも見える女子生徒。

彼女こそ私の推しでありずっとずっと憧れていた悪役令嬢、ロゼッタ・オルコット。

私は乙女ゲームで悪役とされる彼女を幸せにする為にここに居る。




私の知る限りこの乙女ゲームの攻略対象者は四人。先程の王子に王子の友人でもある騎士団長の息子、悪役令嬢ロゼッタの弟の公爵子息、そしてこの学校の保健医。

本来なら平民から貴族の養子になった私がヒロインとしてこの四人と恋愛するゲームなのだが今のところ攻略なんて面倒な事をする気は一切ない。

それに乙女ゲームの中では誰を攻略しても必ず我が推しのロゼッタと敵対することになってしまうのだ、そんなの耐えられない。

だから私は考えた。

『悪役令嬢』のロゼッタを『ヒロイン』のポジションにしてしまえば彼女は幸せになり私と敵対することもないのではないかと。

私のすべき事は恋愛を楽しむ事などではなく、ただひたすらに我が推しロゼッタを陰ながら応援し叶うことなら誰かと幸せになるのを見届ける事であると。


無事に推しの姿を目に焼き付けることに成功した私は早速彼女の幸せを応援するべく行動することにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る