【44本目】オデッセイ(2015年・米)
見てすぐ書いたらめっちゃ長くなった。
【感想】
アンディ・ウィアーのSF小説・【火星の人】を原作とした、火星にたった一人取り残された宇宙飛行士のサバイバル生活と、彼の救出計画を描いた物語です。
日本では上映1週目の土日2日間で33万人を動員する大ヒットとなり、その時点でのリドリー・スコット監督作品、マット・デイモン主演作品では歴代1位にもなりました。第88回アカデミー賞では、作品賞含む7部門にもノミネートされています(【マッドマックス・怒りのデスロード】など強豪ぞろいの年だったためか、受賞はなし。残念)。
2時間20分というハリウッド映画としては少し長めのこの映画は、前半と後半の2部構成になっているといっていいでしょう。
前半パートは、事故によって一人火星に取り残された主人公・マークが、持ち前の植物学とエンジニアの知識で、水や食料などの生活の必需品を自給自得で作ることで、予定よりはるかに長い年月を火星で生き抜いていく展開が軸になっています。
ネット上でこの映画が【火星版鉄腕DASH】と言われる所以となっているパートですね。
このパートでサバイバル以上に印象深かったのは、マーク以外に一人もいなくてガラン、としている居住施設を描いて、彼の孤独な環境をこれでもかというくらい強調しているところですね。
僕も無音の自宅で一人で過ごすことが多いんですが、前半のマークがなにやら作業しているあの空間の無音っぷりは身に覚えがあり過ぎました。
後半からは各個人が意見を出し合ってミーティングし、反論とその対策が繰り返された後実行に映すという展開を繰り返してマーク救出計画を一歩一歩進めていく、というプロジェクトX的な流れに。映画でプロジェクトX的展開、と言えば巨大不明生物特設災害対策本部の面々が意見を出し合う【シン・ゴジラ】が有名ですが、この映画の場合宇宙飛行士のピンチを救うハリウッド映画、ということで90年代の名作【アポロ13】を彷彿とさせる要素が多いです(【アポロ13】もいつかここでレビューする予定)。
ただトントン拍子に計画が進行していくだけじゃなくて、爆破によるジャガイモの凍結や一回目のロケット打ち上げ失敗など、『もう無理かも……』と思わせる痛いつまづき方をするところ(そして再起するところ)も見逃せません。
ところでこの映画で様々なSF映画を思い浮かべた人は多いでしょうけど、自分がSF映画と同時にふと思い浮かべたのは西部劇映画だったんですよね。
後半のアレス4のMAVに向かうために、崖の切り立った岩山の間をローバーで向かうシーンなんて、ローバーを幌馬車に置き換えたらそのまま西部劇のワンシーンになりますよwだから最初見てた時は、西部劇が廃れて描かれなくなったフロンティア精神は、形を変えてこのSF映画で体現されたんだ!フロンティア精神は生きてたんだ!とか思ってたんです。
船長の趣味という体で流れていた1970年代ミュージックも、いわば西部劇映画におけるカントリーミュージックみたいな役割を担っていたのかな、とも思いました(1970年代は火星軟着陸や火星写真撮影など、火星探査が一気に進んだ時期)。
ただ、西部劇が描くフロンティア精神のように新天地に希望を見出してそこに定住する人々を描いていたのに対し、【オデッセイ】のマークは最終的には地球に帰ることを目的としていたところで、結局「西部劇映画とは違うな」と思わされました。
宇宙なんて死と隣り合わせの危険な空間だし、定住できるほどの科学力はこの映画での人間社会にはないですし、そもそも論としてこの多文化主義の時代、帝国主義とコインの裏表のフロンティア精神は時代にそぐわない概念です。
映画のラストでは、宇宙開拓という目的をもって火星探査を行い、火星でのサバイバルまでやってのけた、いわば宇宙時代にフロンティア精神を体現するような男であるマークが、それでも故郷の地球へと帰っていくという結末になります。個人的にこのオチのつけ方は、ハリウッドの西部劇映画や、ひいてはアメリカの西部開拓自体への反省がこめられているようにも感じました。
【キャラについて】
昨日上げた【アイアンマン】は主人公の圧倒的個性によって周りの脇役たちの個性も自然と立っていく、という形のキャラ描写をしている、と書きましたが、この【オデッセイ】も主人公との関係性から脇役のキャラが描写されるという点では同じかもしれません。
ただ【オデッセイ】の場合、主人公自体に【アイアンマン】のトニーほどの個性があるわけではないんですよね。事件が起こる前のマークは、ただの植物学者であり、いろんな方面にチートスキルがあるわけでもなければ地位があるわけでもないし、ましてぶっとんだ性格の持ち主というわけでもない。
彼は偶然の事故で火星に取り残されたのと、自分の植物学というスキルを偶然サバイバルに使用できた(それ実行に移せる精神力は凄いかもだけど)のであって、つまり【偶然起こった状況】によって、マークは【火星人】という唯一無二の個性を得たにすぎないわけです。
ただ偶然の状況を積み重なった結果一般人が結果的に圧倒的な個性を持つにいたる、というシナリオの場合、個性を持つまでの前半部分でストーリーがダレるという難点が起きる可能性があります。【オデッセイ】の場合、マークのひっ迫した状況に加え、火星というほぼ異世界に近い空間の映像美や、一人ぼっちという状況を強調したカメラワークによって、あっと思わせる絵面を連続させてストーリーをダレさせない作りになっているところに自分はお見事ッ!と唸らされました。
後半では【見捨てたはずの友達を再び救出しに行くアレス3の仲間たち】【死亡したはずの宇宙飛行士を救うために計画を練るNASA】【自分たちの科学力でアメリカ人を救うために、国家機密を差し出す中国国家航天局】などが登場しますが、マークが唯一無二の火星人となったが故に、別のキャラクターたちが独自の個性を自然と身に着けているのも興味深いところです。
【好きなシーン】
まだ子供だった1990年代にニュースで何回も耳にしたフレーズなので、やはり砂に埋もれていた【マーズ・パス・ファインダー】を発掘してNASAとの交信に使用したシーンは色々な感情がこみ上げてきて、個人的には名シーンでしたねー。
ああいう形でアラサー以上の心をくすぐる【懐かしいオブジェクト】を自然と出してくるシナリオは、正に発想の勝利、って感じですよ。
そしてリドリー・スコットのSF映画と言えば、【エイリアン】とか【ブレードランナー】(というかリドリーの映画自体、だな。【グラディエーター】もだし)とか、薄暗い世界観でラストもどことなく重い雰囲気が漂う印象が強いですが、【オデッセイ】の場合はみんな笑顔でハッピーエンドを飾ることができたのが印象的でした。興収が良かったのも、大団円で終わる後味のよいストーリーラインだったことに魅かれた人が多かったからかもですね。
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