【19本目】【祝・アカデミー脚色賞受賞】ジョジョ・ラビット(2019年・米)【ネタバレ注意】

【あらすじ】

 第二次世界大戦中のドイツで生きる少年ジョジョは、体が弱いうえに性格も臆病なために、入隊したヒトラーユーゲントでも【ジョジョ・ラビット】とバカにされる10歳の男の子。不安になるたびに、空想上の友達のアドルフ・ヒトラーに励ましてもらう毎日だった。しかし家の片隅の秘密の部屋にいたとある少女との出会いによって、彼の世界は大きく変わっていくことになる―――


【感想】

 第92回アカデミー賞にて作品賞含む6部門にノミネートされた他、2019年のトロント国際映画祭では観客賞を受賞した映画です。

 

 NHK-BSでは海外のドキュメンタリー番組を平日の深夜くらいに放送してるんですが、その枠で定期的にヒトラーユーゲントに関してのドキュメンタリー番組が前後編の二部構成でやってるんですけど。その番組、前編のヒトラーユーゲント主催のサマーキャンプとか見ているとめっちゃ楽しそうに過ごしてて、彼らが今の子供たちと何も変わらない、ごく普通の少年だったことを教えてくれるんですよね。

 戦争映画とかじゃなくてジュブナイル映画の文脈でナチスドイツの時代を描き、一人のドイツ人少年を独裁政権に人生を狂わされた哀れな子供とかじゃなくて、等身大のどこにでもいる少年として描いたのが、この映画です。

 

 序盤のヒトラーユーゲントの合宿訓練で二人前転とか、腕章取り合いゲームとか、上記のドキュメンタリーで見たようなシーンがいくつも飛び出すんですけど、そのシーンでは、少年たちは超子供らしく純粋な人物として描かれ、サマーキャンプも滅茶苦茶明るいノリで描かれます。(序盤でこのシーンを見ることで、観客も大体この作品のノリがわかってきます)

 合宿中にジョジョが【ラビット】とバカにされるシーンなんて、完全にハリウッド映画でよくあるジョックスのナードへのいじめシーンですもんねw


 ジョジョを勇気づけてくれる妄想上のヒトラーも、よくある青少年を勇気づけてくれる空想上のスーパーヒーローって感じですし。とにかく主人公やその周囲の人間が表裏のない純粋な人物として描かれており、彼らが織りなす空気は独裁政権・それも第二次大戦後半のドイツにもかかわらずとても平和です。

 でもだからこそ、純粋な彼らが純粋さゆえにヒトラーを信奉してしまう姿が、下手にシリアスなナチス映画よりもエグく見えます。ジョジョに関して言えば、【格好いい男性になりたい!】という少年なら当然持つような憧れをナチスがうまく利用した、という事実を、この映画は彼を通じて明確に描写しています。


 そんな感じでヒトラーを友人としていたジョジョが、エルサの影響で徐々に妄想の中のヒトラーに反抗していくようになるジョジョを観ていると、あの年代の子供に異性というものがいかに大きな影響を与えるか、ということを考えさせられますね。最初は敵であり、見下すべき存在だったユダヤ人のエルサに徐々に興味を持ちだし、最終的には守るべき大切な存在として見るようになるというこの流れるような心境の変化。「美人だった」「あの年代の年頃が憧れるような年上のお姉さんだった」とか以上に、エルサが毅然とした性格の、つまり母親に似た女性だったという側面もあるのかもしれません。

 また映画を観た人にはわかりきったことでしょうが、周囲の人物がとことん暖かいのもこの映画の魅力ですね。ナチスに反抗しただけでれっきとしたドイツ市民だったママ、どうやらゲイらしいだけでれっきとしたナチス将校だった大尉、友人に理解があるだけでれっきとしたヒトラーユーゲントのメンバーだったヨーキーと、ジョジョの周囲にいる人物がちょっとずつマイノリティだったことが、却ってマジョリティと呼ばれる集団のリアルを表しているように思えました。そんな彼らが、ナチスの価値観では軟弱者として扱われているジョジョを支え、結果的にとはいえ彼をエルサを救う選択に導いた、というシナリオは、正に愛の連鎖が二人の少年少女を救ったということですし、ママが口を酸っぱくして説いていた愛の強さがより一層重みのあるメッセージになってきます。


【好きなシーン】

 

 やっぱ劇場で観てて思ったのは、なんでナチスドイツを舞台にした映画でビートルズだのボウイだのの60年代から70年代のロックミュージックが流れるのか、という話なんですよねー。映画自体のポップさでさほど違和感なくなっているのはただただワイティティ監督の手腕に脱帽ですけど。

 でもパンフレットを読んで納得。この映画で軸となる物語はジョジョがナチス的世界観の殻を破る物語なので、世界観だけでナチス党歌を選ぶよりも「支配的勢力への反抗」をテーマの一つとしているロックの方が、根っこのところでは繋がってるんですね。

 個人的にその手のロック曲使用シーンの中では、陥落寸前のベルリンの光景とともにLOVEの【Everybody's gotta live】が流れたところが、一気に映画の空気を引き締めた感もあって最もグッときました。ベルリン戦ではジョジョみたいな少年が数多く命を落とした戦いでもありますけど、地獄が待っているジョジョに対してのあの曲はただただ【生きろ】とエールを送っているようでもありましたよ。


 あとエグさという点では、恰幅のよくて一見親しみやすい感じのミス・ラームが、女教師が小学校低学年に指導するような感じで、子供相手に焚書や自爆特攻を命令する場面はなかなか胸がキリキリするものがありました。ジョジョたちにとっての彼女は、僕にとっての小学校時代のあの女の先生なんだよな、僕があの先生に爆弾抱えて米兵にハグしろって言われるようなもんなんだよな……って感じで。

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