【18本目】【祝・アカデミー賞2冠】ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド(2019年・米)

【あらすじ】

 カウンターカルチャー真っただ中の1969年のハリウッド。かつて西部劇のテレビドラマで人気を博した俳優・リック・ダルトンは、自分がゲスト出演で食いつなぐ落ち目の俳優になりつつあることに焦りを感じていた。専属スタントマン兼良き友人として、悩むリックを手助けするクリフ・ブース。リックの隣に引っ越してきた人気映画監督ポランスキーと、その妻の女優シャロン・テート。ハリウッドの街中をうろつく、若いヒッピー集団。大きな過渡期を迎えつつある映画の都で生きる人々の姿が、そこにはあった―――


【感想】

 クエンティン・タランティーノの監督作品第9作にして、第92回アカデミー賞で10部門にノミネートされた、2019年で最も注目された映画の一つです。今月13日のノミネート発表時、主演男優賞と助演男優賞のリストにレオとブラピの名前があったときは思わずガッツポーズしましたとも、ええ。


 ストーリーやキャラクターよりも、世界観や設定をリアリスティックに映像に昇華して臨場感で魅せてくれるような、いわゆる「雰囲気映画」ってあると思うんですけど、ワンハリは正にそのタイプの映画です。

 【レザボア・ドッグス】や【パルプ・フィクション】(前作の【ヘイトフル・エイト】もそうですね)のような脚本で魅せるタイプのタランティーノ映画ではないですけど、1969年にタイムスリップしたかのような臨場感が確かにスクリーンにはありました。CGとかド派手なアクションがあるわけじゃないですけど、それでも公開当時IMAXで見る価値があった!と思わせてくれる作品でしたよ。


 ポランスキーとかバットマン&ロビンとか(侮辱的とはいえw)ブルース・リーとか、50~60年代のハリウッド映画かテレビドラマを知っていたらニヤリとさせられる名前がポンポン出てくるのも、かなり楽しめました。僕はたまたま知ってましたけど、【革命児サパタ】なんてあの当時をリアルに過ごした人でもあんまわからないんじゃなかろうかw

 そんで僕は西部劇ではハリウッドよりもマカロニウエスタンの方をよく見てるので、後半でモミアゲ生やしたリックがイタリア映画から凱旋する場面はまんまクリント・イーストウッドで笑いました(正確にはリックのモデルはバート・レイノルズらしいですが)。


 そんな感じでこの時代が大好きなんだな、っていうタランティーノのこだわり(テレビやカーステレオを通じて流れる60年代ミュージックもそう)がとにかく細部の細部にまで詰まっているのがこの映画です。タランティーノ自身がこの当時青春時代を過ごしたんかな?って思いましたけど、調べたら彼は1963年生まれだから大体幼稚園児から小学生になるぐらいの年齢なんですね。僕含む今のアラサー世代がよく90年代をすごい時代だった、って形容しがちなんですけど、僕らにとっての90年代とタランティーノにとっての60年代は「生まれてるけどぼんやりとしか覚えていない、けどすごい時代だったのは知ってるし憧れもある」という時代なわけで、【ワンハリ】で舞台になる1969年当時クエンティン少年が6歳、というのは、すごい頭の中で点と点がつながったような感覚を覚えました。

 

 だからこそ、当時のアメリカ社会の闇を体現した出来事であるシャロン・テート殺害事件を、【イングロリアス・バスターズ】でも見せたお得意の歴史改変によって見事にハッピーエンドに変える後半パートには十二分のカタルシスがうまれます。タランティーノ映画定番の金玉潰しwに何故か自宅にあんなもの隠してたリックの猛攻にと、はたから見ればギャグに近いバイオレンスでヒッピー集団が凄惨な目に遭います。もしかしたらあの場面でのリックやクリフ、ブランディには、ハリウッドに悪夢をもたらしたカルト集団に対して怒りを燃やすクエンティン少年が憑依していたのかもしれません。


【好きなシーン】

 この映画の良さは1960年代の空気をとてつもない臨場感で魅せてくれるところにあるんですけど、そこを考えると中盤のシャロン・テートが自分の出演映画を観に行くシーンがものすごく意味のあるように思えてきますね。「いらなかった」「いらなくはないけど長かった」みたいな感想も公開当時ちらほら見かけましたが、1960年代をリアルに映し出す雰囲気映画では、ああいう何気ない日常を切り取ったシーンこそ重要な意味をはらんでくるように思えてきます。

 画面相手じゃなくて窓口の係員相手にチケットを購入し、映画のギャグシーンで自然と観客の笑いが漏れ、アクションシーンでもみんな聞こえるレベルで歓声を声に出し、シャロンも前の席にお行儀悪く足ついてても何も咎められない、今とは近いようで全然遠い世界。【ニュー・シネマ・パラダイス】のあの映画館のような、古き良き映画館の魅力がそこにはありました。

 中盤のリックの映画撮影、シャロンの映画鑑賞、クリフのドライブシーンは、それぞれあの時代に映画を製作した人、あの時代に映画を観た人、シンプルにあの時代に生きていた人の日々をノスタルジーたっぷりに描写したシーンですね。

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