【14本目】【祝・アカデミー賞4冠】パラサイト・半地下の家族(2019年・韓)【ネタバレ注意】

【あらすじ】

 キム家は半地下住宅に暮らす、一家全員が失業中の貧乏家族。ある日一家の長男・ギウは、友人の代行としてIT企業の社長のパク一家が暮らす豪邸で家庭教師を務めることになる。ギウはパク夫人が長男の美術教師を探していると聞かされ、好機とばかりに妹のギジョンを紹介する。貧困から抜け出そうとするキム家の、金持ち一家を利用した計画が始まった……


【感想】

 【グエムルー漢江の怪物ー】や【殺人の追憶】で知られ、【スノーピアサー】でハリウッド進出も果たしたポン・ジュノ監督の最新作にして、2019年度のカンヌ国際映画祭で韓国映画初の最高賞・パルム・ドール受賞を果たした映画です。先日アカデミー賞でも6部門のノミネートが決定し、正に現在世界で最も勢いのある映画の一つと言えるでしょう。


 劇場で観て帰ってきてこれ書いてますけど、いや、エグかったっすねぇ。

 世にも奇妙な物語でたまにあるコメディ寄りのサスペンス、と思って見に行ったら、ブラックコメディにホラーに社会派ドラマと、様々な要素を持ち合わせたうえでうまいこと一つの作品として無理なくまとめている、という製作陣のその手腕に感服いたしました。


 アレですね、色々なジャンルの要素をバランスよく詰め込んだ作品、ではありますけど、作品が持つリズムというか、テンポ的には成り上がり系ギャング映画に近いんですよね。序盤で色々なことが着実に成功して、中盤で順風満帆な様が描かれるけど、後半でふとしかことがきっかけになって雲行きが怪しくなり、終盤ですべてが破綻する、という。やってることは滅茶苦茶せこくてちゃちいんだけど、そのテンポだけでスコセッシ監督のギャング映画を彷彿とさせてくれました。

 

 そんで僕も性根が綺麗な方ではないので、これまで用意されていた舞台装置を全て生かした終盤の【あの】畳みかけには胸が痛むと同時に、これ以上ない高揚感を持って見ていたのも確かです。そういう意味では、いろんな登場人物が突然理不尽な状況に追い込まれるヒッチコック映画に近いものもあるかもしれません。


 散々言われていることでしたが、劇中の貧困とか格差の描写も秀逸です。こないだの【ジョーカー】ではゴッサムシティ内のゴミが散乱する道路を強調して映すことで主人公一家のような貧困層の心の荒みを暗喩で描いていたわけですが、【パラサイト】で描かれる貧困・格差の描写は登場人物のふとした言動から見て取れるんです。

 オカンだったかな?まぁキム一家の誰かが中盤で【金は皴を伸ばすアイロン】っていう、ある種この作品を象徴するような名言をつぶやくんですが、貧乏一家が半地下の自宅でも中盤でお邪魔した豪邸でも、あからさまに物を散らかしているのは正にあの層の家族特有の心の余裕のなさを表していました。逆に金持ち一家(特にお母さん)は心に余裕がある分人を疑うことを知らず、赤の他人でもホイホイ家に上げてしまうというセキュリティの甘さを見せていて、金持ち家庭と貧乏家庭の対比としては芸術的ですらありました。


 面と向かって接する時は優しいけれど、言動の節々からむっちゃ見下してるのがわかるパク一家(特に社長)の言動が、風船が膨らむように貧乏一家の父親の中で黒いものを少しずつ膨張させていたのも心理描写としてリアルでした。

 そして終盤の【あのシーン】での、社長の【彼】に対する「その状況で気にすることがそれ!?しかもそこまで!?」な言動が、父親の黒いものを爆発させてああいう結果につながる、というクライマックス。【何もかも正反対なグループがある日突然関係を持ったらどうなりうるか?】の答えとしてはこれ以上のものはない悲劇(ある意味喜劇?)でした。


【好きなシーン】

 ソン・ガンホ演じる父親や長男が感情的、感傷的になったりするシーンが多かったのに対して、パク・ソダム演じる長女がヤバい状況に落とし込まれてもあんまし表情を変えることがなかったシーンですかね。

 半地下の自宅が洪水で下水プールになったら若い女子ならトラウマレベルで表情引きつりそうなもんなのに、観た映画がつまんなかった、くらいの表情で下水の吹き出すトイレに座ってタバコ吹かしてる姿とかすごい印象的でした。

 彼女は終盤でああいう末路をたどっても、大人が思い描くような若者っぽく生に執着するようなそぶりは見せませんでしたが、ある意味であの層のあの年頃の、ある意味でのリアルな人生観を象徴する(長男風に言えば象徴的w)人物と言えるのかもしれません。

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