【13本目】ブロークバック・マウンテン(2005年・米)
【あらすじ】
アメリカ中西部のワイオミング州に位置する山・ブロークバック・マウンテンに、季節労働者としてやってきたイニス・デルマーとジャック・ツイスト。過酷で孤独な労働環境の中で友情を深める二人は、ある夜ふとしたきっかけで一夜を過ごすことになる。やがて二人は別れ、それぞれの家庭を持つようになったが、ジャックは再会したイニスに、牧場を持って一緒に暮らそうと提案する。しかしイニスは、少年時代のとあるトラウマによって、ジャックとの生活に希望を見いだせずにいた……
【感想】
【グリーン・デスティニー】や【ライフオブパイ/トラと漂流した227日】で知られるアン・リー監督のアカデミー監督賞受賞作であり、【ダークナイト】の【ジョーカー】ことヒース・レジャーの出世作でもある作品です。
この映画は二人の男性が織りなすラブロマンスが軸となっているので、単にLGBT映画、として見るだけでも面白いのですが、【ブロークバック・マウンテン】の特筆すべき点は、LGBTの物語を、西部劇の文脈で描いている、という点です。
年代設定こそ1960年代から1980年代であり、主に19世紀を舞台にしている西部劇映画とは時代が異なっていますが、主人公がカウボーイであること、大自然に囲まれた中西部のワイオミング州を舞台としていることなどの点から、往年の西部劇映画を思わせる映像が幾度も登場します。
監督のアン・リーと脚本のダイアナ・オサナも、インタビューの中で西部劇映画を意識した発言をしていますが、特にアン・リーがそのインタビューで口にした「西部劇はこれまでいろいろ描かれてきましたが、本当の意味での西部を世界の人々はまだ知らない」という発言と、ダイアナ・オサナがそのインタビューで口にした、「(この映画は)西部劇というだけでなく、西部についての物語です」という発言には注目すべきでしょう。
映画が発明された直後から1960年代ごろまで、ハリウッド(一部イタリア、スペイン)では山のような数の西部劇映画が作られました。その内容の多くは、白人の開拓者が、自分たちの居場所を作るために無法者や先住民と対決する、という物語でした。その物語展開が白人の観客用に大きく脚色された物語であり、実際の19世紀は黒人や先住民、そのほかのマイノリティに対する差別と抑圧の歴史であったことは言うまでもありません。
1960年代の公民権運動以降白人中心主義的な西部劇映画は衰退することになりますが、1990年代になると【ダンス・ウィズ・ウルブズ】や【許されざる者】など、かつての西部劇映画に存在した偽善を暴く映画が登場します(タランティーノの【ジャンゴ・繋がれざる者】もそうかも。特徴的すぎるけどw)。【ダンス・ウィズ・ウルブズ】では先住民、【許されざる者】では娼婦らにスポットライトが当たりますが、同じような形で【ブロークバック・マウンテン】は西部を舞台にしつつ、同性愛者にスポットライトを当てた作品だったわけです。
この映画で衣装デザイナーを担当したマリット・アレンは、「この映画には力強い男たちの孤独と、素晴らしきロマンスがあり、その意味で従来の西部劇を継承している」と語っています。中西部でたくましく生きながらも、そのロマンスゆえに孤独だったジャックとイニスは、ある意味で図らずもかつての西部劇の英雄たちが背負っていたテーマを受け継いでいました。
誰にも理解されない二人の同性愛者を描いた映画では、大自然の光景はより一層重要な意味を増してきます。かつて西部劇映画の中で白人の開拓者たちを迎え入れた大自然は、この映画では西部劇的な主人公像とは真逆に位置する二人を迎え入れています。従来の西部劇映画がアメリカ西部を【広大な自然の中で白人の開拓者たちが生きた場所】として描いたように、【ブロークバック・マウンテン】は【大自然の中で同性愛者たちも生きた場所】として描いているのです。
【好きなシーン】
見知らぬ男性(ジャック)と自分の夫(イニス)が、再会した直後に激しくキスし合うのをアルマが窓から目撃していたシーンですかね。要するに不倫現場を目撃した昼ドラ的な場面なんですけど、相手が相手なだけに、彼女にとっては自分の生活を根底から支えてきた夫と自分の愛情が全くの偽りだったのでは、と疑ってしまう場面だったわけです。イニスは過去のトラウマゆえに同性愛者としての自分を隠していましたが、隠しっぱなしのまま生きようとしたためにどこかで誰かが傷ついてしまう、というジレンマを描いた場面でした。
ところでパンフレットに書いてあったんですけど、リアルの羊飼いにとっては獣姦すら起こりうるから同性愛はともかく同性でのセックスは別に珍しくなかったそうですね。読んでて普通にへぇーって声出たw
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