【2本目】ショーシャンクの空に(1994年・米)

【あらすじ】

 エリート銀行員のアンディ・デュフレーンは、ある日妻とその不倫相手を殺した容疑で逮捕され、終身刑の罪に処せられる。彼が収容されたショーシャンク刑務所は、劣悪な環境と荒くれ者の看守や囚人たちの中で過酷な日々を送ることになる。


だがそんな地獄のような状況の中でもアンディは、囚人仲間で【調達屋】のレッドと友情をはぐくみつつ、希望を捨てずに日々生きていく。やがて彼が捨てなかった希望は、刑務所に様々な【奇跡】をもたらすことになる―――


【感想】

2本目は普通にベタベタなやつからで。


 公開当時はタランティーノ監督の【パルプ・フィクション】やロバート・ゼメキス監督の【フォレスト・ガンプ】といった強豪作品と1994年のアカデミー作品賞を争い、公開から25年以上経った現在でも「感動する映画」の代名詞として名前が挙がる映画です。


 さて、この映画の何に観客たちが心揺さぶられるのか、というテーマはさんざん語りつくされてきたことではありますが、やはり主人公・アンディ・デュフレーン(ティム・ロビンス)の、性的虐待されようが、囚人仲間が死のうが希望を捨てなかった姿勢、というのが最も平均的な答えでしょう。


 しかし、ここではアンディが、あの状況下でなぜ希望を捨てずにいられたのかという問題にも踏み込んでみましょう。


 映画を見返したところ、やはり【教養】という答えが一番正しいように思えます。

 序盤のボグスによる性的虐待の続く地獄から、なぜ彼がはい出せたのかというと、元々は刑務主任のハドレーに遺産相続の税金対策に関するアドバイスと、本来金と手間のかかる書類作成を引き受けたからでした。それによって彼は刑務主任の信頼を得、ボグスによる虐待からも逃れられたわけです。


 映画の序盤ではほかにも大理石や石鹸石からチェスの駒を作ったり、話し相手の好きな聖書のフレーズをすぐにどこの引用か言い当てたりするなど、元銀行家ならではの他の囚人とは異なる教養の深さを自然と見せつけてきます。


 後述しますが、その辺の教養が、彼が刑務所の中でも希望を捨てずにいられた所以でしょう。


 そしてあの脱獄シーンがなぜ我々を感動させてくれるのか、という点に関しては、もう一つあります。


 それは元銀行員でデスクワークを得意とするアンディが、【ルールや権力から逸脱すること】によって刑務所から脱することができた、という点でしょう。


 所長公認の囚人会計士として安定した地位を得ていたところに、若者の囚人・トミーによってアンディの妻と不倫相手を射殺した真犯人の証拠が告げられます。その言葉を聞いてアンディは再審請求を求めます。重要なのは、その時点までのアンディが仮釈放の請求や、再審請求など、あくまで法や制度に乗っ取り、権力にも歯向かわない形で刑務所を出ようとしていた点です。逮捕されるまで真面目に働く銀行員であったアンディは、当初あくまで法にのっとった形で釈放されようとしていました。所長の押収した賄賂の資金洗浄も、所長という権力に従う過程で行われた行動でした。


 しかし、再審請求が無視され、証人のトミーも射殺された状況で、アンディは最終手段に出ます。20年間掘り続けた秘密の穴を通じて、脱獄を成功させるのです。


 一見権力にも歯向かわない性格だったはずのアンディが、実は権力から逸脱した行動をとれる人物であったこと。真面目な性格の彼が、最終的に破天荒な行動によって刑務所からの脱出を成し遂げたこと。その点が、20年間の囚人埼葛の末についに脱獄を成し遂げられたアンディの姿をさらに感動させるシーンたらしめているのではないでしょうか。


 そう考えると、アンディが脱獄をなしとげた設定上の年代が1966年で、権力や既存の行動規範からのからの逸脱を謳うカウンターカルチャーが隆盛を極めた時代であったことにも、彼の脱獄計画との間に奇妙なつながりを感じます。

 


【好きなシーン】

 上で教養ゆえに希望を捨てずにいられたアンディ、という側面について語りましたが、彼と違って希望を持てずに囚人生活を過ごした例の一つが、中盤まで登場する老人のブルックスでしょう。彼が釈放後に首を吊る場面は、囚人が陥る底なし沼のような状況を体現したシーンと言えます。


 レッドの言葉通り、塀の向こうは囚人生活の中で憎むものから頼るものへと変わっていきます。釈放された後、社会に馴染めず、刑務所以上の不自由を味わうことになるかもしれないからです。


 刑務所から自由の身になったかと思ったら、別の刑務所に入れられたのとほとんど変わりない状況。その状況の中で、ブルックスはあの決断をしてしまったわけです。


 彼の死を聞きつけたアンディは、図書室にさらに予算を割く要求をさらに頻繁に行い、刑務所に大音量で【フィガロの結婚】を流します。本や文化によって得られる教養こそが、刑務所を出ても娑婆で臆することなく、日々前を向いて歩いて行ける糧になると知っていたからでしょう。


 ただ長年図書係であり、ある意味アンディの次に教養に近い囚人だったブルックスが、おそらく近くにあったはずの本をほとんど手に取ることなく刑務所を出てあのような最期を遂げたのも、かなり無常観のある展開なのですが。


 彼と似たような人生を歩んだ者に、最序盤で殺されたデブ(悪口なんだけど仕方ないじゃん、こういう呼称しかないんだから……)がいます。彼は看守に脅された挙句取り乱して泣き叫んだあげく、暴行を受けて死んでしまいます。彼はある意味でブルックスやアンディのもう一つの世界線での姿ともいえるでしょう。


 希望のある人間には救いが訪れる、と言えば聞こえはいいし、実際その面では我々に救いをもたらしてくれる映画ですが、一方で希望を持てない人間に対する驚くくらいにシビアなスタンスもこの作品をこの作品たらしめている所以だと僕は思います。

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