第10話 今は昔(終)

「あれはたしか、幼稚園から帰ってきて3人でおやつを食べているときやったな。」

 永遠が話しはじめた。


「いつも3人でおやつ食べていたよね。」

 絆も話しはじめた。


「そうやったな。」

 翔が答えた。


「そん時に、絆ちゃんが言ったの。

 とわちゃんとかけちゃんと兄弟になりたかった。三つ子なら良かったのに…てね。」


「覚えてる。」


「そしたら、かけちゃんが…


『あほやな。

 兄弟だったら、結婚できないんやぞ。

 きずなはオレと結婚したくないんか。』


 て、言ったな。」


「うん…覚えてる。」


「うそや。

 オレは覚えてないぞ。」

 焦る翔。


「かけちゃんひどい。」


「かけちゃん、それはないわ。

 自分が東京で生まれたことも忘れてまうあほなのはわかっていたけど。

 3人の大事な思い出までなー

 覚えてないなんてな。


 あんた、うちの親友、泣かせたら許さへんで。」


「ごめんなー。

 ちがうんや。

 オレ物覚えは良いほうやと思うんやけどな。

 ホンマにそれは…


 せやけど、二人は親友やなくて、姉妹になるってことやろ?」


「かけちゃん、それって…プ プ プ

 プロポーズ?

 絆ちゃん、今のちゃんと聞いてたか?」


「うん、聞いてた。」


「良かったな。」


「うん、良かった。」


 女子ふたりが盛り上がり抱きあって喜んで、オレは完全に蚊帳の外やった。


「もう。

 他のお客さんに迷惑になるからあまり騒がしくせんといてや。

 大介さんからも注意してくださいよー。」


「翔。

 静かにしろよ。」


「大介さーん。

 オレのこととちゃいますよ。

 あの二人のことですよ!」


「はいはい。

 翔の大好きやつ用意しといたよ。

はい、召し上がれ。」


「これは、オレの大好きな女将さん特性のアレですね!

 今日も女将さんおらんから諦めてたんやけど、大介さんもしかしてオレのために…


 いっただきまーす!」


 オレと大介さんがはじめて大阪に行ったのがもう1年前の話。

 大介さんと永遠は婚約中。

 大介さんともうすぐ兄弟になるんやな…そう思いながら、オレはカップを手に取り、女将さん特製スープに口をつけた。



「翔。」


「もしかして僕たちのことも忘れていませんか?」


「忘れるわけないやろ!

 オレの親友は羽根と涼太、お前ら二人だけなんやから。」


 オレはちゃんと覚えてるよ。











 皆との絆を。

 





 





スープを飲んでも。

 





 





永遠に。



 


 





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i l y 絆 @ao627

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