第2話 東京から大阪

 東京駅から大阪駅に向う新幹線の車内。


「大介さん。

 大阪は初めてではないですよね?」


「うん。初めてではないけどね。

 中学の修学旅行以来だから、すっごく久しぶりになるな。」


「オレも久々やわ。

 まさか、こうして大介さんと里帰りできるとは思うてもいませんでしたけど。」


 オレの姉、永遠から大阪に招待された大介さん。

 大介さんはいい機会だから家業の喫茶店を休んで女将さんや涼太も連れて大阪に行くつもりでいたみたいやけど、女将さんと涼太が大介さん一人で行ってくるように仕向けて、無事今日の日を迎えられたという訳。


 それなのに何でオレがのこのこ着いてきたのか…。


 それは、オレだって大介さんと旅行気分を味わいたかったから!そんなん、決まっているやろ!


「大介さん!オレ、今、めっちゃ楽しいです!

 大介さんはどないですか?

 オレの姉ちゃんが無理にお誘いして迷惑じゃなかったですか?」


「俺だって楽しみにしていたよ。

 旅行なんて久しぶりだし、翔も一緒に来てくれてありがとな。」


 大介さんが話を続ける。


「翔。

 俺って、幸せじゃないのかな?

 父さんに早くに死なれて、この年まで独身で。

 自分では不幸だなんて思ったことないよ。

 父さんの残してくれた喫茶店の仕事だって大好きだし、母さんや涼太がいてくれる。

 二人のために生きてきたなんて少しも思ったことないし…

 でもさ、皆が幸せになってほしいって言うんだよな。

 俺は充分幸せなのに。」


 大介さんが本音で話してくれたので、俺も本音で答えた。


「オレから見た大介さんは、

 ホンマに幸せやと思います。

 うやらましいくらいです。

 ホンマに本当にですよ。

 大介さんは幸せです。

 せやけどオレもアホやから大介さんに幸せになってほしいと思っちゃっていました。

 上手く言葉にできないけど…

 大介さんは幸せなんですよ!

 もう大阪行くのやめて東京帰りましょ!」


 オレは座席から立ち上がった。


「わかった、わかったよ。

 ありがとう。翔。

 でも、大阪は行くよ。

 まさか新幹線から飛び降りるのは無謀だからやめよう。」


 大阪駅。

 新幹線を降り改札を抜けたところで、永遠が待っていた。


「翔、おかえりなさい。

 大介さん、こんにちは。

 大阪まで来てくれてありがとうございます。」


「永遠さん。

 御招待いただきありがとうございます。」


 3人で話していた所に声をかけてきた人がいた。


「よっ!カケル‼」


「あっ!

 来てくれたんか。」


「カケルから連絡あったら、来ないわけにはいかんやろ!」


「ありがとうな。

 じゃ、大介さんまた後で。」


「後で?」


 大介さんが目を丸くして驚いている様子だった。


「友達が来てくれたんで。

 永遠のこと、よろしくお願いします。

 今日泊まる場所は一緒なんで、荷物は預かって行くんで、大阪観光楽しんで来てくださいね。

 永遠も大介さんのこと頼んだで。」


 女将さんと涼太がそうしたように、オレだって若い二人のお邪魔できないからね…

 オレは振り返らずに歩きだした。



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