第2話 消えたクリスマス
呪文の効果なのか、目の前が真っ暗で何も見えない。
「カスパー?! カスパー!! どこにいるの?」
「エリス様、こちらでございます……」
暗闇から聞こえるカスパーの声……でも姿は全く見えない。
「どこ?! どこなの?!」
「エリス様、上をご覧ください」
――!!!!
顔を上に向けると、今まで見たことの無いような大きくて明るい満月、そして幾千もの星たちが眩しいほどに輝いていた。
「きれい……」
イルミネーション、灯りが無いと、こんなにも夜空は輝いてみえるのか。こんな美しい景色を見られるなんて、私は何て幸せなのだろう。やはり私の選択は間違っていなかった。
「エリス様、そろそろ周りが見えてきたのではないですか……?」
カスパーの言う通り、暗闇に目が慣れてくると、月明かりに照らされた風景が、私の目にも見えるようになってきた。だけれど、さっきまで私の肩に乗っていたカスパーの姿が無い。
その代わりに……
私の目の前には、
「カ、カスパー?」
「エリス様、貴女の願いを叶えたお陰で
カスパーは今までで一番深くお辞儀をした。
どういう事……? あの小さな姿、何かの妖精かと思っていた。
「そ、そう……それは良かったわね。ところで何故、貴方は小さくなっていたの?」
「実は……悪魔に呪いをかけられておりました。」
「悪魔に呪い……?」
「ええ。実は……悪魔に身体中全ての細胞、組織を縮小させる呪いをかけられておりまして、呪いを解くには、
カスパーは神妙な面持ちで、私のことを傷つけないように言葉を選びながら説明した。『他人の幸せを
そんな私は、カスパーにとって打って付けの相手だったのだ。
「ま、まあ、いいわ! だって、あなたにも、私にもプラスだったじゃない。あなたは元の姿に戻れたし、私はカップルの居ない世界に住むことが出来た。」
「果たしてそうでしょうか……」
――ロイヒテン!!
カスパーは再び右手を挙げて呪文を唱えると、指の先から
街並み……?
露わ……に?
露わになって、眩しい光に晒された景色の中には、ビルも家もアスファルトも存在しなかった。それにカップルどころか、老人、子供、若者……誰も居ない。
私の目に映ったのは……
『さ、砂漠……?』
私の絶句している姿を見て、カスパーは目を伏せ辛そうに口を開いた。
「私は、この世からカップルが居なくなる呪文を唱えました。それは人間だけではなく、動物、植物も例外ではございません。カップルが居なくなることによって、次世代、子孫繁栄することが皆無となってしまいました。」
「そ、そんな……」
「そして、人間が絶滅すれば、当然、新規発明も無くなります。私達の周りにはあらゆる発明で溢れていることはエリス様もご承知頂いていることと存じます。建造物、衣類、食器……全て発明があってこそ存在するのです。カップル……愛し合った男女が子孫を残していたからこそ存在するのです。いや、存在
「カップルが居なくなった今、世界は砂漠化した……」
「仰せの通りでございます。」
カスパーは悲し気な表情で
あの時、彼が『カップルを消して良いか念押しした』ことを、今になって嫌と言うほど理解した。カスパー自身も複雑な思いだったに違い無い。
彼だって、いくら元の姿に戻れるからと言って、周りに何もない砂漠で暮らしたいなんて、願ってはいないだろう。前の世界と違って、果てしない砂漠が続く……人間が居ない世界、村なんて絶対に存在し無い。オアシスがあるのかも怪しいところだ。
しかも、元の世界には戻れない。このままでは飲まず食わずで、
「ね、ねぇ……カスパー? 本当に、本当に元の世界に戻る方法は無いの?」
「実は……1つだけございます。とてもお勧めできる方法ではございませんが……」
「!! ほ、本当に……?!」
元の世界に戻る方法があるのなら、何だってやるわ!
どうせ、このままこの世界に居たって死を待つだけだもの。どんなに厳しくて辛いことだって受け入れるわ!
「しかし、それは私には、とても……」
「何故?! このまま何もしなくたって私達、死ぬだけじゃない! 黙って死ぬくらいだったら何でもするわ!」
私の決意を耳にしてもカスパーの表情は曇ったままだ。一体、何をすることで元の世界に戻るれるのだろう……?
お互いの長い沈黙が続いた後、カスパーは内ポケットからナイフを取り出し重い口を開いた。
「元の世界に戻る方法……それは、カップルの居ない世界を望んだ者、つまりエリス様の心臓に、この銀のナイフを突き立てる。これが唯一の方法でございます……」
カスパーは悲し気に目を伏せた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます