第12話 冒険といえばダンジョンです。

「私が来るべき場所じゃないなんて、勝手に決めつけないでください。私、一年前とは違うんですから!」


 彼女の完璧っぷりに心が折れそうになりつつも、毅然と立ち向かいます。


「学校の二年間でまったく成長しなかったキミが、たった一年でどう変わったって?」


「あれれ、セシルほどの優等生が知らないんですか? 女は三日会わなかったら、刮目して見なきゃいけないんですよ?」


「ハッ。刮目? キミなんか半目で充分だよ。半目でね」

「じゃあ私は白目ですよ!」

「ふうん。ならボクだって白目だね!」

「はああ?」

「はあああああ!?」


「まーまー。セシルってば」


 謎の対抗心を燃やして白目と白目でにらみ合うことになった私達のあいだに、ローゼリアが割って入ります。


「そんなにムキにならなくてもいいじゃーん。どーせドンケツが試験に受かるワケないんだからさ」


 ふむ、と納得しかけたセシルでしたが、少し考えたあとに、うんざりした様子で首を横に振りました。


「いいや。おこぼれで受かる可能性だってある」

「おこぼれ?」

「ああ。ティアレットの試験は、魔物を倒し、魔石を回収するというものだからな。マーチさん、今回もどうせ同じなんだろう?」


「ええ、その通りよ」


 マーチさんって名前なんですかね? 気だるげな受付のお姉さんが、試験の内容を説明してくれます。


 私達はこれから、西に一時間ほど歩いた場所にある【浅闇の洞窟】へ行き、魔物を倒さなければならないようです。


 魔物は死ぬと肉体が消滅し、魔石という結晶体に変化します。


 それをひとつ持ち帰りさえすれば、試験合格とのこと。


 セシルが問題にしているのは、魔石の種類によって、冒険者ランクが決まる点です。


 例えば、洞窟ネズミの魔石を持ち帰れば、ランクは最低のFから。

 

 【浅闇の洞窟】で一番の難敵とされている猛毒サソリの魔石ならランクはDからのスタートとなります。


 ランクによって報酬の高い依頼を受けられるようになるので、みんな上を目指します。結果、Dランクを目指す人は、その過程で倒した洞窟ネズミの魔石なんていりません。


 セシルは私が、いらなくなった魔石を譲ってもらおうとしてる――そう思っているようなのです。


「なんですかそれ。失礼にもほどがあります。それなら私はこの試験、みんなのなかで一番いい魔石を持ち帰ります。それなら文句ありませんよね!」


 一番いい魔石なら人に譲るわけないのですから、おこぼれをもらったという疑惑は完全払拭です。


「ふうん。じゃあ、もし一番じゃなかったら?」

「そのときは、私は合格を辞退して、冒険者にはなりません。どうですか?」

「ふん、そこまで言うなら構わないよ。一番になれないのはどうせ決まり切ったことさ」


 こうして私は、自分から不利な条件をつきつけてしまったのでした。しかも、こっちが賭けに勝ったらなにをしてもらうかも言わずに。


 何度考えても、これじゃ損しかしてません。


 どんくさ、ここに極まる、です。



*** 



 試験会場である【浅闇の洞窟】までの一時間は、大変な苦痛でした。


 一緒にいるのは二年間、学舎をともにした人達でしたが、友達は皆無。無言を貫く私をよそに、みんなは楽しそうです。


「ドンケツハンナ、前と全然変わってないよね」

「セシルに挑むとか、身の程知らずもいいとこ」

「一年前も馬鹿のひとつ覚えみたいに突っ込んでいってさ」

「まるでイノシシだったよね! 武器は細身剣なのに、フットワークがさあ」

「ドスンドスン!」


 ギャハハハ、と起こる笑い声。

 

 セシルに突っかかっていく私を見て、一年前のことを思い出したのでしょう。


 無謀にも学園トップのセシルと決闘し、退学となったドンケツの私。

 

 しかも一年後に鈍器を持って再登場。ネタとしてはなかなか芳ばしいです。


 ああ、これなんて罰ゲーム?


 この場にセシルがいればもう少しみんな大人しくなると思うのですが、彼女はもう一流の冒険者。試験について来るはずもありません。


 賭けをしたんだから、見に来るくらいすればいいのに。


 どうせ私の負けを確信してるんでしょう。

 

 一番いい魔石はローゼリアが持ち帰るに決まってる、と。


 ローゼリアは性格最悪ですが、魔法だけは上手ですからね。

 

 不正を監視するためについてきている試験官のベテラン冒険者さんも、彼女の活躍に期待しているようです。


 さて、果てしなく長く感じられた旅路は終わり、私達は森のなか、洞窟の入り口へとたどり着きました。


「それでは試験を開始する。魔物に勝てないと思ったら、無理せず入り口まで引き返すように。はじめ!」


 おじさんの掛け声とともに、みんなが一斉に洞窟内へなだれ込みます。


 みんな、三年生の実習で魔物の相手をしたんでしょう。恐怖したり、ためらったりする様子は微塵もありません。


 私はというと、ぶっちゃけちょっとビビってました。一番をとるとか大言をはいた私ですが、まだ魔物とは一度も戦ったことがないのです。


 鈍器スキル、役に立ってくれますよね……?


「どうした? 君も行きなさい」


 おじさんにうながされ、私はようやく洞窟に入ります。

 

 大丈夫、自分のレベル、いくつだと思ってるんですか。


 一億ですよ一億。どんな魔物にも、負けるわけがありません。

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