第11話 同級生と最低最悪の再会です。
『ヤダヤダ、ヤッバーい☆ 魔術師志望のアタシより剣が下手だなんて、ハンナってばどんだけどんくさいのォー?』
ローゼリアは、学園でしつこく私をからかってきました。
ダークエルフは今でこそ毒気を抜かれていますが、三百年前までは人間とガッチガチに敵対していた種族。
人を傷つける癖が、遺伝子レベルで刻み込まれているのかもしれません。
ド派手なピンクの髪。
ダークエルフらしさ全開の褐色肌。
マントの下に着ている服は下着かってくらい布地が少ないのに、ニーソックスには逆にたっぷりとフリルがついてます。
極めつけはジュエリーのストラップがジャラジャラついた魔法杖。
百歳を軽く超えているはずなのに、流行のファッションを追いかけまくりです。
まあ、エルフ族にとっては百歳なんて、乳幼児みたいな年齢らしいのですが……、そう考えても彼女の私に対する言動は、とても看過できるものではありませんでした。
剣の下手さを馬鹿にするだけならまだ事実だから許せます。
が、彼女はそれだけに留まらず、練習中に足をひっかけてきたり、魔法で私の動きをさらに遅くしたりして、みんなの笑いを誘っていたのです。
私がトロいとか、ノロマとか言われてた理由の半分は、彼女にあると思います。
まあ残り半分は、完全に私自身のせいなのですが……。
「試験とかやんなくてよくなーい? なんでレベルが1足りないだけで受けなきゃなのカナぁ。どうせゴーカクするに決まってるのに」
「まあまあ、学園卒業時点でレベル20を超えてる人なんて、学年にひとりいればいいほうなんだからさ」
「在学中にレベル100まで行っちゃうセシルが異常なだけだよね。ローゼほどの実力者が次席に留まっているとか、うちらの世代、どんだけ黄金世代なのよ」
ローゼリアだけじゃありません。私の苦手な同級生がわんさかとギルドのなかに入ってきます。
ソルトラーク冒険者学園の生徒は、王国中から集まり、卒業後は再び各地に散らばります。
だから、ここティアレットに残るのは一割に満たないはずなのですが……、それでも十人以上いるみたいです。
いやああああああ……。
私は彼女らに背を向けてちぢこまりました。どうかバレませんように……!
しかし、その祈りは受付のお姉さんが発した一言であっけなく砕かれます。
「今日の試験なんだけど、飛び入りでそこの子も受けることになったのよ。仲よくしてあげてね」
それを聞いて、ローゼリアがこちらに視線を向けます。さっと顔をそらす私。
「へー。学園出身じゃない子なんかいるんだ? ……って、なんかダッサい武器しょってるし、芋っぽーい! 田舎から出てきたばっかりなのカナ?」
うう、いきなりあおられました。
ローゼリア、こういうところ全然変わってません……!
学園での嫌な思い出がどんどんフラッシュバックして、胃がキリキリと痛みます。
「……ん? ンんんん?」
ローゼリアは背を向けている私の顔をのぞきこみます。必死で顔を背けますが、しつこく追いかけてくるのです。
「うわ、誰かと思えばドンケツハンナじゃん! ひっさしぶりー!」
「お、お久しぶりです。ローゼリア」
「まだ冒険者になるのあきらめてなかったんだねー! ヤダヤダ、ヤッバーい、超ウケる! やっぱ武器の才能はないけど、人を笑わせる才能だけはバッチリじゃん! あ、ゴメン。人に笑われる才能の間違いだったー!」
ムカムカムカー!
「べ、別にいいでしょう? いつまで冒険者を目指そうが、私の勝手です!」
「いやあ、どう考えても無理っしょー。なんで学園追い出されたか、覚えてないのぉ? ど・ん・く・さ・い・か・ら・だ・ゾ?」
指で私の頬をぐりぐりしながら、ウインクしてくるローゼリア。血管がブチ切れそうになります。この的確に相手の逆鱗に触れてくる能力、もはや才能ですよね。
絶対、彼女は魔術師じゃなく前線の
そして同級生達の中には――私が一番会いたくないと思っている子まで混じっていました。
「――キミはもしかして、ハンナ・ファルセットか……?」
私を学園から追い出した張本人、ご登場です。
「セシル・ソルトラーク……!」
悔しいことに、彼女は一年前より、さらにカッコよくなってました。
長い青髪、鋭い目尻、体躯にぴったり合った胸当て。腰に提げた細身剣の柄に手を添えた立ち姿は堂々としたものです。
ていうか絶対、彼女って【至剣の姫】レイニーを意識してますよね。
もし意識せずにこんなに似てるんだったらそれこそずるいです。私は意識しまくってもひとつも似せることができなかったのに……。
私を学園から追い出した憎むべき相手なのに、あまりに綺麗で目が離せません。ぐぬぬ……。
「未練たらしいな。雰囲気を味わって満足したのなら、さっさと出ていくんだね。ここはキミのようなレベルゼロが来るべき場所じゃない。決まり切ったことさ」
セシルは私を睨みつけながら言います。
一年間、工事現場にいた私にさえ、彼女の武勇伝は届いてきました。
弱冠十五歳にして、ティアレット最強の剣士と噂され、次代の勇者と称えられる彼女。
でも、それがなんだというのでしょう。
ここは彼女の父が理事長を務める学園のなかじゃありません。
ひとたび学園の外に出たなら、彼女もまた一介の冒険者に過ぎないのです。
ちょっと腕が立って、人望があって、顔がいいだけの。
……充分じゃないですか。くっ!
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