第13話 私以外はみんなグルです。

 みんなのあとを追いかけ、洞窟内の開けた場所に到着しました。


 魔物との戦闘はすでに始まっています。みんなは剣や槍を振るい、魔法を唱えて、洞窟ネズミの群れを相手に奮戦していました。


 ネズミと言っても、大きさは豚と同じくらいあります。ネズミは猫さんに食べられますが、洞窟ネズミは猫さんを食べてしまうのです。

 

 猫さんがかわいそうです。これは私が倒して、まだ見ぬ猫さんを守るしかありません。


 冒険者志望者11人に対し、洞窟ネズミは10体。ここでネズミを倒しきれば、ほとんどの人は合格する計算です。


 私も、変な賭けをしてなければここで合格を拾えたんでしょうけど――ああ、自分のバカバカ。


「うわー、なに? 本当にソレ使うつもりなの? ヤダヤダ、ヤッバーい!」


 私が構えた大ハンマーを見て、ローゼリアが笑います。


「それってつまりアレでしょ? 剣のレベルが上がんないから、技術のいらない、叩くだけの野蛮な邪教武器を選んだってことでしょ? ドンケツすぎてつらみがヤバーい!」


「ふん。なんとでも言ってください」


 まずは鈍器が通用するかの確認です。自分のほうへ向かってきた洞窟ネズミを叩こうと、ハンマーを振りかぶりました。


 ところが、です。


「【ファイア・アロー】!」


 瞬間、横からかすめるように飛んできた火の矢が、洞窟ネズミの首筋を貫き、体毛を燃え上がらせました。


「ざーんねん。その魔物はアタシが倒しちゃいましたぁ」


 ローゼリアが杖でこつんと自分の頭を叩きます。

 

「ひどっ! 横取りじゃないですか!」

「えー。別に誰がどの魔物を倒すトカ、ルールなくない? さっきのネズミ、名前でも書いてあったのカナ? でもごっめーん、もう魔石になっちゃったから確認できないね☆」


 そう言ってローゼリアは、足下の魔石を拾います。石、といってもそんなに硬そうではありません。宝石みたいな見た目のわりに、ローゼリアが手でもてあそぶとグニグニと形が変わります。

 

 むー。もっと文句をつけたいところですが、ここでは早い者勝ちがルールです。


 ムカつきますがしょうがありません。まだネズミはたくさんいるんです。一番近くのネズミに向かって、私は突進しました。


「やああ!」


 今度こそ。ハンマーがネズミに直撃しかけたそのときでした。


「【ファイア・アロー】!」


 またもや、です。横から飛んできたローゼリアの魔法がネズミを燃やし、魔石へと変えます。


「またまたアタシが倒しちゃいました。ごめんねー。でも、ハンナがトロいのがいけないんだよぉー?」


 彼女がてへぺろしているあいだにネズミは消滅。ゴロンと転がった魔石を盗賊志望の子が素早く回収します。

 

 けれど、ローゼリアは盗賊志望の子に怒ったりしません。むしろ、当然といった様子です。


「なるほど……、そういうことですか」


 つまり私以外は、みんな結託しているのです。ひとりも不合格者を出さないように。そして、私だけは不合格となるように。

 

 人数分の魔石を回収して、あとでわけあうのでしょう。そして、おそらく一番いい魔石はローゼリアのものになります。


 なにも言わないところを見るに、どうも試験官までグルのようです。おそらく、理事長の息がかかっているのでしょう。


 【剣闘王】である理事長の権力は、この街では絶対です。学園から不合格者を出そうものならどうなるか、彼もよくわかっているのです。


 これも不合格者を出さないための『学園の伝統』ってことですね。そして私は、そのおこぼれにも預かれないくらいダメだったと。

 

 きっと、試験を受けずに冒険者になったセシルは、こんなことが横行しているとは知らないんでしょうね。じゃなきゃ、あんなに堂々と私におこぼれがどうのこうのなんて言えるはずないです。


 あー、退学になってよかった。ちょっとそう思っちゃいました。だって学園に残ったままだったら、こんな不正っぽい行為で合格させられていたわけでしょう?


 そんなの、絶対イヤでしたよ。


「そういうことなら私にも考えがあります」


 堪忍袋の尾がプッチンしました。


 あなた達がみんなで合格を目指すなら、汚いとは思うけど見逃しましょう。

 でも、みんなして私の足を引っ張るって……。そんなに私のことが嫌いですか?


 ぐっ、とハンマーを持つ手に力が入ります。

 それなら、こっちも見せてやろうじゃないですか。


 ――圧倒的なレベル差ってやつを。


 戦意を露にした私を嘲るように、またもやローゼリアが一番近くにいたネズミを先に仕留めようとします。


「【ファイア――」


 しかし、魔法が発動するよりはやく、私はぶん、とハンマーを横凪ぎに振りました。

 

 はたからみたら、なにやってるんだって感じだったでしょう。私とネズミとのあいだには、まだまだたっぷり距離があったのですから。


 しかし、あら不思議。ハンマーが通過した空間に生まれる半透明の釘。


 その数は、実に千本にものぼります。


 ドスドスドスドス!


 それらはひとつひとつが意思を持っているかのように飛び、洞窟ネズミ達に残らず突き刺さりました!


「な……!」


 今度は私が、みんなのネズミを横取りする形になりました。でも、文句ないですよね。あったとしてもローゼリアに言ってください。


「い、今のなんなの!?」


 ぽかんとする人が多いなか、ローゼリアだけが驚愕し声を震わせました。なにが起きたのかちゃんと見ていたのは、私の邪魔に集中していた彼女だけだったのです。


「鈍器スキル【千本釘】です」

「ま、魔法……?」

「鈍器スキルですってば。空気を叩いて、釘に変えたんです」


 まあ、魔法と勘違いするのも仕方ないですかね。空気に混じっている魔力を固めて釘にしているわけですし。


 でも、魔法っていうと、鈍器の神様がすねるんですよね。だからわざわざ訂正しなきゃいけないんです。鈍器スキル……、響きが全然かわいくないです……。


「い、いやいや、なにまともに取り合ってるんだよローゼ。俺達の攻撃がじわじわ効いてて、たまたまこいつがハンマーを振った瞬間に倒れただけだろ。まぐれまくれ」


 戦士志望の男子が言うと、ローゼリアはその言葉にほっと胸を撫で下ろします。


「そ、そーだよね。ドンケツが遠距離全体攻撃なんて使えるワケないし!」


 彼女はそう自分に言い聞かせると、盗賊志望の子に目配せして、魔石を回収させます。

 

 おこぼれに預かってるのはあなた達じゃないですか。そう言いたかったですが、まあいいです。


 セシルと約束してしまった私は、もっと強い魔物を倒さなきゃいけないんですからね。


*******

どんきです。読んでいただきありがとうございます。

明日の更新は今日と同じく、0時すぎ、12時すぎ、21時すぎです。

ついにハンナの実力が本格的に明らかに!

どうぞお楽しみに!

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