第8話 トラウマ

 小学校4年生の頃だっただろうか。私は幼い頃、ピアノを習っていた。当然のごとく、ピアノの発表会があった。今までは緊張していても弾けていたものが、なぜか小4の時の発表会に限って弾けなかった。厳密に言えば、途中までは問題なく弾けていた。ところが、気づいたときには音は止まっていた。人の視線が私に集まっている。それに気づいたとき、頭が真っ白になった。目の前に楽譜はある。そもそも譜面なんてとっくに覚えている。…のはずなのに、手が全く動かなかった。焦れば焦るほど体温は上昇し、頭は真っ白になる。どうすればいい?この言葉だけが頭を渦巻いて、指先ひとつまともに動かせない。完璧なフリーズだった。

 それ以来、私は人前に立つと頭が真っ白になり、体が熱くなるようになった。どうしようもないことだった。人の視線が集まった瞬間、何も考えられなくなる。足が縫い付けられたように動かなくなる。このどうしようもないトラウマはきっと治らない。わけもなく、私はそう確信していた。

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