第3話 捜索開始
「はい、えー、では中に入って行こうと思っております。メンバーは、お馴染み委員長、ヤンさん、そして管理人の田鳥さんです。では田鳥さん、鍵の方、お願いいたします」
ちなみに紹介はしませんでしたがカニさんも一緒です。田鳥さんは、あまり中には入りたくないが案内がいないんじゃ仕方がないですよね、とスゲー嬉しそうな口調です。
玄関は両開きの扉で、古びた鉄の鍵を捻るとそれが内側に開きました。
入るとすぐにホールです。ソファーやらテーブルやらが並べてあって埃を被っています。向かって右にはカウンターらしきもの。成程、スキー場の宿というのは本当のようです。
正面奥には上への階段。その脇に下に降りる階段。
見上げると二階まで吹き抜けで、天井には大きな埃まみれのシャンデリアがぶら下がっています。
田鳥さんはカウンターの後ろに回ると、しゃがんで数枚の紙を引っ張り出しました。
「山荘の地図です。とはいえ、構造は簡単です。ご覧の通り、四角いドーナッツですね。
客室が一階には十、二階には十二、それぞれバストイレ完備。
一階には給湯室、厨房、二階には従業員用の休憩室、リネン室……と、まあ、色々ありますね。
地階は自家発電装置と、倉庫です」
僕は天井を見上げ、耳を澄まします。非常に静かです。
「家鳴り、全然しませんね。ところで二階より上、例えば屋根裏なんかはありますか」
田鳥さんは、地図を見てから頭を捻りました。
「ここには載っていませんね。警察の方は――」
ここで、カニさんがカメラの外から無言で首を振ります。後でよく聞いてみると、見つけられなかったというより、見つける前に皆逃げ出した、という方が正しいようです……あ、これ、カットかな?
まあ、いいや。
僕としては、A氏は屋根裏にいるのではないか、という予想です。と、ヤンさんが大声でA氏の名前を呼びました。おい、こらあ! と威嚇付きで何度も叫びます。何の返事もありません。
ですが、ミシミシと何処かで音がし始めました。
僕はスマホを取り出しました。アンテナは二本と一本を往復中。これは通話中に切れるかもしれないと考え、ばーちゃんにこれから探索を開始するとメールを送りました。
委員長がカメラを構えて横に来ると、スマホを覗き込み、それから入口、天井へとカメラを動かすと――あっと委員長が声をあげました。
全員が上を向きます。
かたり、と音を立てて、遥か上の天井の板が一枚閉まる所でした。
みしみしという音が遠くから鳴る中、僕はヤンさんに、見ましたか、と聞きました。
ああ、とヤンさん。
カニさんが誰か覗いていたような、と呟くと、田鳥さんも頷き、A氏に見えたような気が、と言います。
というわけで、映像を巻き戻して検証です。すると、皆さんご存知、天井裏から覗く男がバッチリ撮れていたのです。
うーん、開始十分も経たずに、いきなり生存確認ですからね。そりゃコメント欄でこの回が『やらせ爆発』と言われるのも判ります。
まあ、カニさんは大喜びです。早速、屋根裏に行こうと言いました。
「となりますと、二階に上がって屋根裏への道を探すことになりますね……手分けして探すのはお断りします」
田鳥さんの言葉に、全員が頷きまして、ぞろぞろと皆で、お互いの背中に手を当てたりして移動です。この手のホラー映画で、お化け屋敷に入って皆が別れちゃうのは、見た目が悪いからなんだろうな、と思います。
先頭は田鳥さんで、その次にはヤンさん。手にはバット。
委員長がカメラマンで、基本的には三番目。とはいえ、先んじて階段上から撮ったり、一人だけ廊下の奥に行ったりしています。
ノーカット版ですと、ほら……ここ! この廊下の奥と、二〇三のドアの影! カットした移動シーンに人形が映ってるんですよねえ。じわじわと、僕らに迫ってたんですね。あの時はそんな事、全然気づかなくて、ドキドキしながらドアを開けて、部屋に入り、色々調べるってのを繰り返していました。この時、音量を最大にして聞きますと、小さな足音が聞こえます。三番目の二〇四と七番目の二〇九の時です。試してみてください。
さて、その時に並行してヒョウモンさんとオジョーさんは何をしていたかといいますと、ひたすらに『解決』に向けて動いていたのでした。
えーっと、ここから画面が二分割で僕達とヒョウモンさん側が同時進行になります――ちょっと見辛くない、これ?
で、ヒョウモンさん達が山道を登っておりますが、これ、オジョーさんの提案でして、昔、スキー場と連携していたなら、今でも行こうと思えば行けるのではないでしょうか、と。
ヒョウモンさんもすっかりカメラマンとして覚醒しておりますから、上からの絵もおさえておきたいと大賛成。
それで、山荘をぐるりと回ってみたのですが、そこでがけ崩れが起きているのを発見したのだそうです。規模こそ小さいですが、上のキャンプ場から山肌が崩れています。
それで、それと少し距離をとって登り始めたのですが、半分くらい登ったところで、オジョーさんが奇妙なものを見つけました。
「ヒョウモンさん、あれ! あれを! アップでお願いします!」
オジョーさんの指差す所をアップで撮りますと、土砂に埋もれて縄みたいな物が見えます。地面が脆く見えたので、二人は少し上に上がって撮影を続けました。
「……しめ縄、かな?」
ヒョウモンさんの結論にオジョーさんは頷きました。
確かに映像を拡大してみると、ボロボロのしめ縄らしき物、に見えます。また、周りには古い木の板らしき物も見えます。
ヒョウモンさんはそこからカメラをぐっと下に向けました。
すると山荘の屋根に何かが擦れたような大きな跡があるのが見つけました。慌ててオジョーさんと、二人で少し山を下り、屋根より少し高い場所から観察しました。
屋根の形状は切妻屋根で、表面はスレート瓦、すべすべのアレです。
そこに、ご覧の通り、何かが当たって抉れ、そのまま滑った跡がついています。そして、それはドーナッツの内側なのです。つまり、下で見ても判らないのです。
さて、僕らの方に話を戻します。
二階リネン室を調査し、僕が空っぽの棚の上に登り、天井板を押し上げた正にその時、委員長のスマホが鳴りました。オジョーさんからの通話です。
『委員長さん! 上のキャンプ場から何かが滑落し、中庭に落下した形跡があります!』
「ほう? 何かの予想は?」
ヒョウモンさんが電話に代わります。
『予想では御神体的な何か。地滑りの跡に古いしめ縄みたいな物と、御堂か何かだと思われる板切れの残骸を見つけたよ』
委員長は了解と言って、中庭に何かある! と大声で言いました。と、それに反応するかのように、僕の目の前で天井板がさっと開き、ばっと人の顔が現れました。
下で棚を支えていたカニさんと田鳥さんが、うわっと声をあげます。
間違いなくA氏です。ただ、少し痩せていて目が血走っていまして、いきなり僕の喉を掴むと、唸りながら屋根裏に引きずり込みました。
この時、僕が頭に付けていたカメラには以降の出来事が、ちゃんと映っており、本編でも編集加工一切なしで放送したのですが、とにかくインチキだとコメント欄で叩かれました。
写真加工ソフトで明度を変えるとワイヤーみたいな細長い物が天井付近に動いているのが見えるというコメントも。
いつもの事ですが、間違いなく確実な証拠というものはありません。
まあ、あえて言うなら、それはワイヤーじゃなかったな、ということでしょうか。
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