【短編】土属性の斧使いだけど四天王をクビになりました。

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第1話 突然ですが四天王をクビになりました。

「ま、魔王様……今なんと?」


 無駄に悪趣味で不気味な装飾が施された魔王城の謁見の間で、筋骨隆々で背に巨大な斧を背負ったスキンヘッドの男『大地のドルマ』は、信じられないといった表情を浮かべて王座に座る魔王を見た。


「いや、だからそのー。申し訳ないが四天王を辞めてはくれぬか」


 普段であれば同じ事を聞き返せばすぐに地獄の雷でお仕置きを与えてくる魔王は、今日は珍しく先程言ったのと同じ言葉を口にした。


「ご冗談を魔王様!! 魔王軍勤続百二十年、そして四天王配属八十年。私はこれまでこの斧で幾多もの人間共を屠ってきました。私の何が御不満なのですか!?」

「いや、お前の仕事に不満があるとかではなくてだな……」

「ではなぜですか!? 貴様らもなんとか言ったらどうだ!!」

 ドルマが左右を見渡すと、横一列に並んでいた他の四天王達は一斉に目を逸らした。


「まぁ、話を聞けドルマよ。ワシは歯に衣着せるのが苦手だからズバリ言わせてもらう」

 ドルマは魔王を見据え、ゴクリと唾を飲む。


「お前は地味なのだ」

「地味!?」

 魔王が頷くと同時に他の四天王達も頷いた。


「どういう事ですか!?」

「いいか? 四天王というのは魔王軍の象徴でありカリスマ性が必要なのだ。その四天王の中で土属性のお前は存在が地味なのだよ。それに武器が斧というのもイマイチかっこ良くないしな」

 魔王の言葉にドルマはただ唖然として口をパクパクと開閉した。


「まぁ、お前にはこれから東方司令部の軍団長として活躍してもらう。送別会の方は炎のグレンに任せてあるから、詳細は後で使い魔を……」

「ちょちょちょ! ちょっとお待ち下さい! 本当にそんな理由で私は四天王を辞めねばならぬのですか!? 辞めるのはグレンじゃダメなんですか!?」

「ダメだ。グレンは女人気があるし、四天王に熱血イケメン枠は必要だ」

「じゃあ、水のクリアでは!?」

「クリアは紅一点だしお色気枠だ」

「風のフィールでは!?」

「ショタ兼天才枠だ」

 ドルマは膝からガックリと崩れ落ちる。


「し、しかし、四天王というからにはそれなりの実力者が四人揃わねば四天王とは呼べますまい! 私の代わりになる実力者がいると言うのですか!?」

「……それを言っちゃうか」

「え?」

「お前に気を遣って言わずにおいたが、それを言っちゃうか」

「まさか……」

「いるのだ。お前の代わりが」

 魔王はそう言うと、パチンと指を鳴らす。すると、謁見の間に突如雷鳴が響き渡り、魔王とドルマの間に爽やかなイケメン青年が現れた。


「雷のステイル、見参」

「はい皆、これからドルマの代わりに四天王に入って貰う雷のステイル君だ。拍手」

 ドルマを除く四天王達は皆パチパチと拍手をし、ステイルは「よろしくお願い申し上げます」と恭しく礼をした。


「待て待て待て待てい!!」

 ドルマはもうなりふり構っていられなかった。


「こんな青二才が私の代わりだというのですか!?」

「彼は雷の最上級魔法を扱えるし、イケメンだし、雷と同じ速度で動けるという特殊能力がある。そして剣術もかなりの腕前だ」

「いやいや、実力があるとしてもイケメン枠がグレンと被っているではありませんか! それに武器が剣ではグレンと武器被りもしているでしょう!?」

 その場にいた一同は炎のグレンと雷のステイルを見比べる。

 確かにグレンもステイルもイケメンの青年であり、グレンは背に大剣を背負い、ステイルは腰に長剣を携えていた。


「いや、グレンは熱血イケメンで大剣でぶった斬るスタイルだし、ステイル君はクールイケメンで長剣での素早い剣技が売りだから」

「イケメンはイケメンだし、剣は剣でしょう!? それに素早さとクールさが売りなら風のフィールとも被っています!」

「それ言ったらこれまでもぶった斬るスタイルと暑苦しさがお前とグレンが被っていただろう。そもそもイケメンは何人いても良いのだ。魔王軍に入りたがる女魔族も増えるしな」


 ドルマはもう魔王には何を言っても無駄だと思った。そこで他の四天王達を説得する方向へと作戦を変える。


「グレン、お前と俺は同期だったな。これまで二人で背を庇いあった事も数知れない。お前は俺が辞めてもいいのか!?」

「見苦しいぞドルマよ。確かに俺とお前は同期だし、互いに背を庇いあった仲だ。だが、『辞めるのはグレンじゃダメなんですか!?』などと言う奴のために魔王様に口添えするつもりはないわ!!」

「……そんな事言ったか?」

「言っただろ! しかも真っ先に俺の名前を出しやがった!」


 確かに言ったかもしれないとドルマは思った。しかしここで引き下がるわけにはいかない。


「あれはなりふり構っていられなかったからだ! それにイケメン枠が増えればお前の人気が半減するぞ!」

「ふん。脳筋なお前は戦ばかりに夢中で世間を知らぬ。今魔族の女達の間ではボーイズラブというのが流行っておるのだ」

「ボーイズ……ラブ……?」

「そうだ。イケメン同士が仲良くする様子に女達が一喜一憂するというものよ。つまりステイルが四天王に入る事によって、俺の人気が落ちるどころか注目度が更に上がるというわけだ!」


 どうやらグレンもドルマには味方してくれそうにもない。


「クリア! お前はどうだ!?」

 ドルマが振り返ると、妙に色っぽい格好をした青髪の女クリアはビクッとした。


「お前が四天王に入りたての頃、魔王様のパワハラに泣くお前の愚痴をよく聞いてやっただろう」

「あ、いや、それはそうですけど……」

「お前がグレンと付き合っていた頃、うまくいかなくて泣いていた時に慰めたのは誰だった?」

「ド、ドルマさんです……」

「そんな俺が四天王を辞めてもいいのか?」

 するとクリアはモジモジしながら言った。


「あの、でも私、今ステイルさんとお付き合いしてて……」

 クリアがチラッとステイルを見ると、ステイルはクリアにウインクを返した。


「クソーッ!! どいつもこいつもふざけるな!! フィール、お前はどうだ!?」

 ドルマがフィールの方を見ると、そこには既に誰もいなかった。そしてフィールがいた場所には一枚の紙が落ちており、紙にはこう書かれていた。


『ドルマさんへ。借りていた二千ゴールドはいつか必ず返します』


 ドルマは怒りにその身をプルプルと震わせる。そんなドルマの肩を、魔王はいつになく優しく叩いた。


「送別会、焼き鳥と鍋ならどっちがいい?」

「ウガァァァァァァァァア!!!!!」


 その日、ドルマは魔王軍に辞表を提出した。

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